𝕥𝕦𝕞𝕦𝕘𝕦 "奇病庭園" 2023年11月5日

奇病庭園
奇病庭園
川野芽生
寝る前にすこしずつ読みすすめた本 天井の灯りを落として読書灯だけのほの暗さの中で読んでるとだれかの遺した古い大切なもの入れの箱の中をこっそり覗き込んでるような気持ちになる 箱の中には貝殻やゆがんだ真珠や虫の抜け殻や動物のひげが仕切りもなく一緒に入れられていて、それらはそれぞれ住む場所も寿命も違うものたちが「かつて生きていた証」でもある ▪️「翼に就いてⅡ」 わたしは山尾悠子さんの『ラピスラズリ』の亡霊と少女の邂逅を描いた「閑日」がとても好きで、なので奇病庭園でのイリュアンとキアーハのふたりの邂逅があまりにも好きなのですわ キアーハの「あの子が私を呼んだときは」「どこにいようと迎えにいく。すぐに迎えに行く」という言葉は月も星もない夜にただひとつ目の前を照らしてくれる灯りであり続けてくれる 自らの意思で塔に来てキアーハに出会って、いままでの名を捨てて意味をもたない「イリュアン」という名前を自分で選びとった少女の塔での日々はあまりにも静謐で、それ故にその後のイリュアンに起こったあらゆるできごと(イリュアンを「助けに」やってきたフュルイに繰り返しデッドネームで呼ばれ続ける、まるでイリュアンの意思がないかのように「あなたは魔物に唆されている」と説得され続ける、教団に戻されたあとの暴力、キアーハとの別離による絶望)が読んでいて本当につらかった 著者の川野さんご本人が発売時期にあわせて「性的マイノリティの矯正(コンバージョンセラピー)を思わせる描写が含まれている」などのトリガーウォーニングのアナウンスをされていた(こういうアナウンスが著者ご本人から事前にあるのは大変助かる) 幻想小説でかつクィアな属性を持つものたちが克明に描かれていて、いまこういう作家さんがいてくださることがわたしにはとてもうれしい ▪️「牙に就いて」 結婚できる年齢になると犬歯を抜かれる女たち、理由は「夫に逆らうといけないから」。犬歯を抜かれて、これでちゃんとしたお嫁さんになれると安堵した、それが当たり前だと思っていた、けれど婚礼の前夜に抜いたはずの犬歯がふたたびするすると生えて牙になって、そのときにやっと「ほんとうはお嫁さんになんてなりたくなかった」と気づいた「もはや花嫁ではない、牙のある娘」の話 あまりにもよすぎる 最初から最後まで、灯りを必要最低限にした状態で読了 すばらしい読書体験だった 読み終わってしまうのがあまりに惜しかった 読んでるあいだ自分も皮膚を掻いたところから鱗が生えて、触覚が生えて、毛皮が生えて、複眼になっているんじゃないかという気がした
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