堺屋皆人 "乱歩と千畝" 2025年9月29日

堺屋皆人
堺屋皆人
@minahiton
2025年9月29日
乱歩と千畝
乱歩と千畝
青柳碧人
細部まで丹念に織り込まれた史実が、フィクションに真実味を与える。大河ドラマのような傑作。 以下、ネタバレあり。 江戸川乱歩ファンなので手に取った。 故に、乱歩の年譜は頭に入っているので、最後どうなるかまで、乱歩側の〈あらすじ〉を知っている状態で本作を読む事になる。 が、だからといって面白くなくなるかと言えばそんな事は全くなく、むしろ知っているからこそ、「あ、来るぞ、あの人だな…!」とニヤニヤしながら楽しめる。 三国志や新選組モノも、結末がわかっていてもみんな大好きなように、作家がどこをどう描くかで、筋を知っていても充分面白い。 杉原千畝は、命のビザを発行し続けた偉人として、ドキュメンタリーをテレビ番組で観た事があり覚えていたが、周辺人物など詳しい情報までは記憶していなかったので、こちらは純粋に時代小説として楽しんだ。 元々史実がすでに面白い乱歩の人生ですが、特に面白いのは、やはり横溝正史との関係で、笑いあり、涙あり、二人の熱い友情に感動した。 作中、千畝のサインと違い、自分のサインでは命を救う事はできないと言った乱歩だけど、戦後、乱歩の作品に救われた子どもたちは沢山いたはずで、その子どもたちの中から、有望なミステリ作家が沢山生まれたことが描かれていたのもファンとして嬉しい。 乱歩が種を蒔いて耕した土壌から育った作家達が繋いでいくミステリ界の未来も明るく、読後感が良かった。 千畝を支えた二人の妻の存在も素敵だった。 先妻のクラウディアが言った、「優しいほうを選びなさい」が、あのビザを発行させたのだし、冷静かつ、時に非情な反対を強いられる仕事に着きながらも、自分を見失わずに済んだという事が胸をうった。 もちろん、乱歩の妻隆さんも史実をベースに、主役を支えるヒロインてして魅力的に描かれており、色んな意味でイイ奥さんだった。強い。 後半は、アベンジャーズか!とツッコミを入れたくなるくらいに、バンバンあの頃のヒーロー&ヒロイン(著名人)が出てくるので、感動より笑いが来てしまった。 そんな中、あの昭和の歌姫だけ本名が書かれなかったのは、権利関係的なNGでもあったのだろうか? と思うくらい、他は実名でめっちゃ出てくる。 次は誰だ?と、楽しかった。 そして、とうとう、乱歩の年譜に終わりが来る。 知っていても、胸を抉られた。これは泣く。 千畝と乱歩が最期に見た夢、そしてエピローグで二人を繋いだ本と、そこに並んで書かれた文字、二人のもしもを描いたフィクションが終幕し、読者が本を閉じると、仲良く並んで歩く二人の背中がある。 そんな演出が仕掛けられた素敵な装丁まで心にくい。 フィクションが多分に盛り込まれているとはいえ、歴史上実在した人物なので、朝ドラ「ばけばけ」が終わったら、「乱歩と千畝」やってくれないかなぁ。
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