

堺屋皆人
@minahiton
ミステリ生まれ、少年漫画育ち、近代文学沼在住。超遅読。
- 2025年7月7日ミステリ2025年読み終わった続編可能なの?と思って手に取った。 話題になった前作より好き。読んでよかった。 女性編集者と新人作家の〈僕〉が、二人組のベテラン作家の片方の急死により連載中に絶筆となってしまった作品の真相と周辺に浮かぶ謎を追うミステリ。 結末を書いた原稿やメモは残されていないか、誰かに続きのアイデアを話していないかなど、周辺を調べていくうち、二人の不仲説など色々な事情が浮上していく。 残された片方の作家が続きを書こうとしないのは何故なのか。 このまま作品は未完で終わってしまうのか……という引きが上手く、ページを捲らせる手を早める。 真相が隠された作中作の謎が今回の仕掛け。 前作のような仕掛けを期待する人には物足りないかも知れないが、前作も仕掛けは帯バレしていたので、今回もそこは個人的に重要な要素ではなかった。 私にとって大切なのは前作同様仕掛けた理由の方で、〈たった一人のために存在する物語〉という、シリーズに共通する大切な部分はちゃんと続編にも受け継がれていた。 真相を知る者以外の読者の目には映らない優しい物語。 文章が読みやすいのに美しく、読後感もよい。 前作を上手くボカシているので、なんらかの事情で2を先に読んでしまっても安心。
- 2025年6月27日秋期限定栗きんとん事件 下米澤穂信ミステリ2025年audible読み終わった約1年間の恋と事件によって、別れ道が再び交わる三年生の秋のお話。 二年生の夏に互恵関係を解消し、それぞれ別の恋人と学生生活を歩んできた小鳩くんと小佐内さん。 その〈普通〉で平和な〈小市民〉的日常が描かれるのと並行して、次第にエスカレートする連続放火事件。 小佐内さんの恋人・瓜野くんが、新たに新聞部部長になり、放火事件を深追いしていく。 張り切る瓜野くんを応援する小佐内さんだが、その裏には何かありそうで……。 一方、小鳩くんも新聞部の元部長である堂島くんと事件を追ううちに〈謎解き〉をすることになり、せっかく手に入れた普通の学生生活に亀裂が生じていく。 さらには、放火事件の裏に小佐内さんの影もチラついて……。 放火事件の犯人は? 動機は? 小佐内さんの行動は……? そして、その先にある登場人物の関係はどうなるか……! というのが下巻の内容。(以下ネタバレ) 正直、賛否別れそうな読後感。 春の時のような日常の謎は小鳩くんと仲丸さんの会話の中で少し入るが、次第に大きな謎が姿を表して繋がるという前作までと違い、ほぼ全編通して放火事件を追う形になるので、ミステリ好きの読者の思う謎解きはこちらに期待されるが、放火事件の犯人と動機については早いうちに見当が付くようになっていて、犯人も動機も読者の期待と興味から離れており、事件の真相を明かされても「ふーん」という感想にはなるかも。 ただ、この作品の一番の謎はそこではなく、何故彼女は……という部分なので、それが明かされる過程が放火事件解決後に描かれる。 そのネタバラシをどう思うかが、賛否別れそうだと思った所。 マロングラッセと栗きんとんの説明が効いていて、タイトル回収な締めくくりは上手いし流石。 あと、この最後の一文オチを、笑える人とエグ味を感じる人がいて、私は後者だった……えっぐい……。 狼に噛み付いたヤツが悪いって事なのだけど、羊の皮被って近くに置いておいて、この仕打ち……騙された仔犬が可哀想だろ……。 この作品で準主役と準ヒロインだった二人のその後が幸福でありますように。 このシリーズ、多少飲み下し辛いエグ味はあれど、物語としては面白いので最後まで読むつもりなのだけど、堂島くんだけが心のオアシスなので、冬季や巴里でも、変わらずにいて欲しいものです。
- 2025年6月26日秋期限定栗きんとん事件 上米澤穂信ミステリ2025年audible読み終わったシリーズ初の上下巻の分冊。下を入手してから読むのを推奨。 互恵関係を解消した夏の事件以来、学校でも疎遠になった二人の、それぞれの恋と青春を描くシリーズ三作目。 両者ともそれぞれに恋人ができ、その進展が描かれる。 二人が別々に学生生活を過ごすので、従来の小鳩くんの視点に加え、新たに小佐内さんの恋人である瓜野くんの視点が追加され、彼の目から見た小佐内さんが描かれる。 新聞部である瓜野くんを応援する小佐内さんと、放火事件を追って張り切る瓜野くんの交際は、小佐内さんの手のひら転がし感が可愛く微笑ましくもあるが、あくまで小佐内さんの内面はミステリアスなままなので、絶対何かあるぞ…という期待が読者の中で高まる。 一方、クラスメイトの仲丸さんと交際し普通を手に入れた小鳩くんも、幸せなはずなのに何か足りない感じで描かれ、二人の関係がどうなるのか目が離せない。 この作品は上下巻通して、二年生の秋から三年生の秋という長い期間のお話。 その間、新聞部の追う放火事件が次第にエスカレートしていく。 小鳩くんの友人で新聞部部長である堂島くんの協力のもと小鳩くんも事件を追うことになり、やがて事件をきっかけに別れた道が元の一本道に戻るように繋がっていく……。 事件の犯人も気になるが、それ以上に登場人物達の関係性がどうなるのかが気になり、ページを捲らせる手を早める……が、下巻に続くのである。
- 2025年6月25日漱石先生の事件簿 猫の巻柳広司ミステリ2025年audible読み終わった落語を聴いてる気分でクスッと笑える。Audibleでぜひ! タイトルは『漱石先生の』とあるが、『吾輩は猫である』のパスティーシュ。 『吾輩〜』に描かれたエピソードの裏側や隙間を埋めるような事件を、書生の〈僕〉が解き明かすという日常の謎の連作物語になっている。 事件の内容も、原典のエピソードや人物を変えずに「なるほど」となるのが流石。 元々『吾輩〜』自体が漱石周辺の人間をモデルに書かれた話なので、この話の〈先生〉は漱石と苦沙味先生、どちらを想像しても読める。(もちろん脚色されたフィクションとして) 『吾輩〜』を読んでからだと2倍楽しいが、この作品だけでも面白いので、この本を読んでから『吾輩〜』を読むのもアリ。 漱石自身や周辺の人間関係を知っていると、モデルになった人物と比較できたりして、3倍楽しい。 遠出の共にAudibleを聴いたのですが、ナレーターの方がとても良くて、登場人物の演じ分け、軽快な文体にマッチした絶妙な語りのテンポ、大変心地よく、ふふっとなりながら聴かせていただきました。楽しい時間をありがとうございます!
- 2025年6月24日切れない糸坂木司ミステリ2025年audible読み終わったかつて読んだ再読やっぱ日常の謎モノを書く作家で一番好きと実感。 ある事情で実家のクリーニング店二代目となった主人公・新井和也が持ち込む謎を、主人公の大学の友人で喫茶ロッキーの店員・沢田が解き明かす日常の謎短編連作集。 ひきこもり探偵と似た感じのテイストではあるけれど、毎回クリーニングにまつわる謎になっているのが凄い。 探偵役とワトソン役の関係性が次第に変化していく過程も良いし、商店街に住む他の登場人物も魅力的で、人と人の繋がりを書くのが本当に上手い作家。 だから、最後にタイトルの『切れない糸』に感動する。 10年以上前に買って読んだきりで、先日長距離走る予定があったので、久々に「どんな話だったっけ?」と思ってAudibleで再読。 『先生と僕』シリーズや『ホリデー』シリーズが大好きなので、元々好きな作家でしたが、「何で続編ないの⁈」ってなりました。沢田君のその後が気になり過ぎる…。
- 2025年6月22日夏期限定トロピカルパフェ事件米澤穂信ミステリ2025年audible読み終わった小市民シリーズ第二弾。 春に続いて夏休みの話。 互恵関係にある二人の関係性が大きく変わる巻。 前半は前巻と同じく、身の回りに起こる謎を小鳩君が解き明かしていく、日常の謎短編といった感じのお話。 しかし、そこに張られた伏線は日常を飛び出し、ある犯罪事件へと繋がっていく。 恋人では無いのに、なぜ夏休み中に呼び出されていたのか……など、違和感を感じていたモノの形が浮かび上がる全体の謎は、狐と狼の関係に亀裂を生じさせ、大きな影を落とす形で事件は収束する。 夏の終わりの、少し切ないお話。 かなり続きが気になる終わりかたなので、秋の上下巻を読める環境を確保してから一気読み推奨。
- 2025年6月9日魔女裁判の弁護人君野新汰ミステリ2025年読み終わった買った面白かったー‼️ ファンタジーぽい表紙だけど、史実上実際にあった負の歴史を元にした魔女裁判をめぐるミステリ。 魔女の存在が信じられ、魔女と告発される事そのものが死を意味する時代、無実を訴える少女を救う事はできるのか…!そのために、魔女の不在を証明することは果たして可能か…! というお話。 史実の中にフィクションを織り込むバランスがいいし、魔女裁判に関する部分もしっかりと知識に裏付けされているのに、小難しくなく、ちゃんと解る、地の文の巧さが光っていて、スルスル読めた! もちろん、ミステリとしての出来も素晴らしく、本格リーガルミステリと、変格・特殊ミステリの両方しっかり味わえ、展開が気になり、読む手が止まらない! 語りきれないので、noteに叫び散らかした。 https://note.com/minahiton/n/nf6f90d8394e0 ※具体的なネタバレは無いけど、先入観なく読みたい人は注意
- 2025年6月4日
- 2025年6月2日春期限定いちごタルト事件米澤穂信ミステリ2025年audible読み終わった小市民シリーズ一作目。 日常の謎系ミステリで殺人事件などは起きない。 身の回りに起こる、〈何故?〉や〈どうやって?〉をロジカルに解決していくが、決して堅苦しく小難しくならないのが流石の米澤穂信作品。 主人公・小鳩くんと小佐内さんの関係も、少しビターな青春というキャッチフレーズにふさわしく、どこか硬質な印象を持ち、謎めいている。 個人的には、友人の堂島健吾くんが好きなのですが、流石にあのココアの作り方は常軌を逸していると思う。 小鳩くんの導き出す解答に(それも確かに可能なので)一応納得はするものの、正直「いやいや、ちょっとそれは…」と思わないでもない展開や謎解きもある。 それでも、面白く読みやすいので、他人にも薦めやすい。続きも楽しみ。 追記:Audibleでも聴いたのですが、めちゃくちゃ聞きやすかった。男性、女性両方イメージどおりだし、演じ分け凄すぎる。まだAudible化されて無いのもあるけれど、全作品同じ方でお願いしたい。
- 2025年4月17日先生と僕坂木司ミステリ2025年audible読み終わったかつて読んだ再読続編を読むために、再読をAudibleで。 大学生・二葉と中学生・隼人が遭遇する日常の謎の短編ミステリ。 坂木司作品の中で一番好きなシリーズ。 本で読んでも読みやすい文体だけど、耳で聞いてもテンポ良くて心地いい。 朗読の方も作品にピッタリ。 続編『僕と先生』の方もAudibleにきて欲しいなぁ。できれば同じ方で。
- 2025年4月9日志賀直哉随筆集志賀直哉,高橋英夫2025年読み終わった再読本棚を整理していて、ふとパラパラしたらいつのまにか読んでいた……。小説の神様、随筆も恐るべし。 後半の芥川や太宰など他の文士に関する随筆もいいが、前半の日常や動物に関する話が特に好きだ。 クマとのエピソード、オチを思い出せなかったけど好きだった記憶だけ残っていて、やっぱり再読してよかった。
- 2025年4月4日忘却バッテリー 21みかわ絵子2025年読み終わった買ったジャンプ+で追ってるけど、熱かった帝徳戦が終わって清峰成長したなぁ〜からの、恥将→智将のバトンタッチは衝撃だったなあ。 本誌でまだ決着ついてない氷河戦もどうなるか先が気になってしゃーない。 小手指に勝って欲しいけど、桐島兄も弟にイイとこみせて欲しい気もするし…。 って、舞台化するん⁈ おめでとう!ぜひ現地で荒牧さんのパイ毛聞きたいw アニメ2期も楽しみ〜。
- 2025年4月4日明智恭介の奔走今村昌弘ミステリ2025年読み終わった剣崎シリーズのスピンオフ。屍人荘以前の明智と葉村の物語。日常の謎ミステリが5作収録された短編集。 本編3作を先に読んでいるが、コチラから読んでも良いし、本編はテイストが違うのでコチラだけ読むのもアリ。 屍人荘から追っている者としては、胸がギュッとなるけど、学生としての2人が見られて嬉しくもある。 特に「泥酔肌着引き裂き事件」は、くだらない謎と2人のやり取りにニコニコしてしまう。 「手紙ばら撒きハイツ事件」を最後にもってくる構成もニクイ。葉村と出会う前の、まだ助手だった頃の明智。探偵事務所の人たちとの話ももっと読みたい。 明智シリーズ第一弾とあるので、コチラの続編にも期待しております!
- 2025年4月1日
- 2025年3月28日五つの季節に探偵は逸木裕ミステリ2025年読み終わった単行本で読んだので文庫解説は未読。 トリックとかではなく<人間>がメインのミステリ。 主人公・みどりが高校生から母になるまでの年月に起こる事件が5本の短編連作で描かれ、成長と共にみどりも探偵らしくなっていく。(最後の春は後輩視点) ひと口に青春やヒューマンドラマものと括れない苦味もあるけど、読みやすく、いつでもサクサク読める気軽さが良い。 ミステリ連作としても、色んな分野の素材をネタにしてあるので、事件も幅広くバラエティ豊かで飽きない。 個人的には秋の「施錠の音が」が、登場人物もオチも一番好き。 続編も出ているので読もうと思う。
- 2025年3月21日赤い部屋異聞法月綸太郎ミステリ2025年読み終わった再読読書会用に表題作「赤い部屋異聞」のみ再読。 企画用に書かれたオマージュ短編で乱歩の「赤い部屋」が元作品。 前半はほぼ「赤い部屋」を別視点から語ったダイジェストだが、それに一つ枠を加えてひっくり返す構成の巧さと、元作品である乱歩が最後に明るい光の下に晒して種明かししたものを、もう一度妖しく暗い赤い光の下に戻すような読後感がたまらない。 両者とも子どもの頃から大好きな作家なので、他の作品も読み返したくなった。
- 2025年3月21日みんな蛍を殺したかった木爾チレン,紺野真弓ミステリ2025年読み終わった蛍という美しい少女の死に対する<何故>と、その傍らに残された未送信のメールにある〈永遠の親友〉は〈誰〉が明かされるまでを登場人物の各視点から読み進めるミステリ。 蛍が視点人物〈オタク〉達に近く意図や視点人物から見た蛍の人物像に裏があるのか、あるならどんな意図があるのか……と行動観察する気持ちでスラスラ読めた。 共感できるかどうかは人によると思うけれど、細かな描写が生々しく、いそうな感じのする人物描写が巧いと思った。 あと京都の街の描写と平成期のオタクに対する解像度が高く、個人的に京都生まれの日陰者としては懐かしさもあった。 ラストは賛否分かれそうだ。
- 2025年3月21日途上 谷崎潤一郎集古典名作文庫編集部,谷崎潤一郎ミステリ2025年読み終わった再読読書会用に再読。 やっぱ初期の谷崎が好きだ。著者本人としてはあんまり…だったと言われているけど好き。 オチまでの流れが良い。 あと、探偵が世間話風を装って犯人をページ跨ぐレベルの長台詞で淡々と追い詰めていくのも大好物。 10代の頃に読んで内容は覚えていたけど、オチを知ってるからこそ前は気に止まらなかったポイントに気づいたりして初読より好きになった。
- 2025年3月20日江戸川乱歩全集(第1巻)江戸川乱歩ミステリ2025年再読読書会に備えて「赤い部屋」を寝る前に読み返す。 この怪しい雰囲気と語りがたまらない。オチも。 初めて読んだのは小三の頃「江戸川乱歩傑作選」だったけど、「赤い部屋」も自分を乱歩沼に引きずり込んだ作品のひとつだと再確認。 にしても第1巻は本当に好きな作品ばかりだから他にも目移りして困る。寝ないと…。
- 2025年3月17日禁忌の子山口未桜ミステリ2025年読み終わった面白かった。色んな意味で凄かった。デビュー作なのコレ⁈ってなった。続編、次回作、出たら絶対読む。 当たり前だけど、初めて読む作家さんだから合うか分からなくて冒頭から医療用語連発で不安だったけど、序盤に謎の死体が出てきたらあとは一気読みだった。 魅力的な謎、ロジック、人間ドラマ、あとミステリ好きホイホイな図面と密室、全部揃った作品。 選評読んで、「探偵役と語り手の既視感」とあったけど、確かに自分も火⚪︎&有⚪︎が脳裏にチラついたのと、個人的に探偵のイケメン描写が頻発するのが気になったけど、それも映像化する際には活きてくる要素だなと。(過去のコーラのシーンとか特に画になるはず) 登場人物に対してあまり感情的にならずに共感とかもしないタイプの読者の私が、ある人物の過去の告白シーンで本投げそうになるくらい強いヘイト感情を沸き起こされたのも珍しく、読み手の感情を揺さぶる巧さも見事。そして容赦無いなと思った。 タイトルと真相の関連性も強く、ああ…となるのも良い。 この謎だからこそのストーリー、結末にも納得できるし、結末は心情的には人によって賛否分かれるかもしれないが、私はそうあってくれてよかった。 完成度が高く間違いなく面白いけど、とにかく色々重たいので、コンディションの良い休みの日に一気読み推奨。
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