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堺屋皆人
堺屋皆人
堺屋皆人
@minahiton
ミステリ生まれ、少年漫画育ち、近代文学沼在住。超遅読。
  • 2025年10月23日
    一次元の挿し木
    一次元の挿し木
    なぜ、本作が「このミス大賞」グランプリじゃなかったんだ……?という事が一番のミステリ。 ーヒマラヤ山中で発掘された二百年前の人骨。大学院で遺伝学を学ぶ悠がDNA鑑定にかけると、四年前に失踪した妹のものと一致した。ー なんやこの謎、大好物!はい、優勝! とあらすじだけで思ったくらい、魅力的なフック。 さすがこのミス……だけど、大賞ではなく文庫グランプリらしい。 あらすじに惹かれながらも、これだけ強い武器がありながら、大賞逃すような致命的な欠点でもあったのだろうか?と思って読んでみる。 いや?なぜ?ホント、私がこの賞に期待している要素が全部備わっているんだが……? 魅力的な謎、ページを捲らせるドキドキの展開、大風呂敷の畳み方、え、これ一位じゃないんだ……? この回の最終候補作、出版されたものは全て読んだし、最終候補作品の選評や各作品の解説も読んだけど、このミスに期待される作品てこういうのじゃないの?少なくとも私はそう。 面白いで言えば、他の候補にも面白いのはあるし、私の好みもあるんだけど、「このミス」らしさとか「このミス大賞」の納得感を備えているのは、この作品だと思うんだけどなぁ〜。 確かに、真相のヒントが具体的な数字や思い出話や表紙やら至る所で大盤振る舞いなので、「たぶんこうなんだろうなぁ」と誰でも思うし、実際そうなんだけど、単なる答え合わせの為にページを捲らされている感覚にならない展開の上手さに、「話の転がし方がうめぇなぁ!読ませるねぇ!」となりながら終始読み進められた。 前半、初っ端から投げられる魅力的な謎にグイグイ引きこまれ、中盤は登場人物たちの思惑と駆け引き、背後に迫ってくる不穏な空気、どんどん不安が広がって、謎の真相に見当がついたとしても、次の展開や話の結末はどうなるんだろ…という興味が失われず、読む手が失速しない。 後半はバイオハザード3でネメシスに追われている時を思い出すようなドキドキの連続でした。(殺人犯の登場を表す効果音の使い方も上手い) 話の畳み方も好き。こういう結末もすき。私はね。(ワンチャン続編も望める結末だし。) 映像化しても絶対面白いヤツやん。しないかなぁ。できれば映画化。 一つだけ残念だったのが、私の推しが序盤に少し出てきただけで出番終了だったことwエピローグに出てこないか期待したのに…残念無念w そういう意味でも続編希望。
  • 2025年10月20日
    我孫子武丸犯人当て全集
    再録集だからいいか……とか思っていたが、やっぱり買って良かった‼︎ 昔PSPで出たゲームのシナリオ(名前は変えてある)から、近年出た『推理の時間です』に収録されていた短編など、5編を集めた短編集。 読んだ事あるから買うか迷っていたが、作家のファンなので結局買った。 出題編→挑戦状→解答編、という構成に加え、各作品の末にその作品の著者解説が付いている。 著者がどういう所に気を配って作っているのかとか、著者の考える犯人当てとは…とか、作る側の視点の解説で、これから犯人当てを書こうとする人への参考書にもなる。 制作の舞台裏が知れて楽しかったです。 この中では、「記憶のアリバイ」だけ未読だったのだけど、一番好みの謎でした。
  • 2025年10月6日
    白魔の檻
    白魔の檻
    『禁忌の子』に続く<城崎シリーズ>二作目は、霧と毒ガスに覆われた病院×不可能殺人のクローズドサークルミステリ。 前作が、私好みの魅力的な謎とヘビーなテーマでもエンタメとしてラストまで面白く読めたので、今作も発売前から期待していた。 ー霧とガスにより孤立した病院で不可能犯罪が発生して──。 現代ミステリでは、まずクローズドにするのが大変で、現実味を残しつつ、でも魅力的に、閉鎖され外部と音信不通の状況を作らないといけない訳ですが、「なるほど、こいつは美味しそうな舞台だ」ってあらすじ見てなった。 例えば登山中に濃霧に覆われて山荘から出られないとかと違って、舞台となる病院には患者がいて、当然、閉鎖された状況になっても医師たちによる医療行為が行われている現場でもあるわけで……。 彼らは容疑者でありながら、主人公たちにとって、全員守らなければいけない命でもあり、その為に絶対協力しなければならない人たちでもある、というのが面白い。 事件が解決されないまま第二の事件も発生し、霧も晴れず、ガスも溜まっていき……どんどん物理的にも精神的にも追い詰められていく中で、疑心暗鬼になっていく医療スタッフたち、不安を爆発させる患者たち、ガスのタイムリミットと医療の停止による命のタイムリミット……前作とは違う角度からヘビーでした。 著者の現役医師というスペックを活かしたお仕事モノ小説としても興味深く、災害医療や僻地医療を考えさせられる。 コロナ禍や震災で浮き彫りになった問題点や、医療を受ける側の認識、色々と斬り込んで描かれているが、そこは流石の説得力ですよ。こういうのは医療従事者でないと書けない。(素人が調べて書いてもきっとペラペラになる) そのリアルさが小説としての厚みを持たせていると思う。 医療用語解説のおかげもあり、専門用語のオンパレードから始まった前作より丁寧に説明がされていて、今作は医療シーンも置いてけぼりにならずに読めるので安心。 今作の語り手兼城崎先生のワトソン役は、前回ちょい役だった研修医の春田さん。 そのせいか、城崎先生の顔面偏差値の高さを伝える描写が増した気がするw(前作は友人関係だから表現が直接的じゃなかったから?) 前作の語り手であった武田先生は、続編難しいかな?と思っていたけど、少しだけ出ていて嬉しかった。 ここから少しネタバレ。 犯人の絞り方とかは犯人当てモノっぽい作りになっていて、挑戦状こそ挟まれないけど、会話中で前提条件などを整理して、推理する箇所を提示してあるので、謎解きチャレンジは可能。王道ストレートな犯人当てでした。 ただ、犯人さん証拠の隠滅は他に方法あったやろ……とも思ったので、真相の全てに納得するかは読み手次第ではないかと。 単に私は作品に書かれている以上、その世界ではそうなんだと思って納得するタイプなので、気になっても、その作品に対する評価は下がらないですけど。 犯人については、状況的にどんどんクロになっていく中頼むからこの人どうか犯人でありませんように……と願いながら読んだ。 まあ、そういう人が犯人な方が物語として面白くなってしまうからしゃーない。 ともあれ、今作も面白かった! 謎は前作のほうが魅力的だったけど、それでも小説としては今作の方が好きでした! 次回作も楽しみにしております!
  • 2025年10月3日
    逆ソクラテス
    逆ソクラテス
    読後感が爽やかで文章も読みやすく、読む人を選ばない短編集。 Audibleにて再読。 伊坂幸太郎は何作か読んできたけど、有名なシリーズやメディア化された作品より『終末のフール』が一番好きだ。 そんな私の2番目に好きな伊坂作品が、この『逆ソクラテス』。 小中学生から読める作品なので、ミステリ的な要素や伏線回収などの印象が強い普段の伊坂作品が好きなファンには物足りないかもしれないが、私にはそこが刺さった。分かりやすく、読みやすい、人を選ばない作品。 各話、独立して楽しめる短編だか、共通したテーマのようなものもあり、子どもから見た大人、子どもの視点を通して見える世界や、彼らの世界のルールが瑞々しく描かれていて、こんな友人や先生と子ども時代を過ごせていたらなと思ってしまう。(現実的にはこんな上手くはいかないんだけど、フィクションの中くらいは、ね) 全体の構成としては、登場人物の子どもの頃を回想して語られる短編連作で、それぞれの物語が緩く繋がりあっていて、登場人物のその後が分かったりするのもいい。 表紙に惹かれて読んでよかった。 覚えておかなければいけない伏線や証拠とかがあるわけではないので、日をおいて聴いてもいい短編連作という点でも、Audible向きの作品だと思う。
  • 2025年9月30日
    8番出口
    8番出口
    映画未視聴なら引き返すこと。 徐々に真相を知る楽しさをフルに味わうなら、ゲーム→映画→小説(又はAudible)の順番で。 以前からSwitchのセルランで気になっていたゲームが映画化するという事で、どんなもんじゃろとプレイ。 え、コレをどう映画に? となりつつも、劇場へ。 原作のシンプルな間違い探しゲームに、ちゃんとストーリーがついていて、ホラー映画要素もあり、役者も安定の二宮和也さんで、映画として楽しめた。 映画の元となった小説版、映画見てしまったからストーリー知ってるしな…と思いつつもAudibleあるし、ナレーターが梶裕貴さんだったので、いっちょ聴いてみるか!と、視聴。 あ、これ、映画見る前に聞かない(読まない)方がいいですね。 冒頭でアナウンスされているように、映画未視聴なら引き返すこと。 以下、ネタバレ。 ストーリーとしては、映画とほぼ全く同じ。 主人公の行動や過去、おじさんの正体も同じ 。 なのですが、役者の演技で表現されていた部分や、映像の中に映っていても解釈が別れるような部分が、地の文による詳細な説明で明らかにされているので、ああ、アレはそういう事だったのか、とか、あの時の表情の裏でこんな事を考えていたのか、とかが解る。 特に、映画の中で少年はほぼセリフが無いので、小説版の少年視点の心情描写で明らかになる事も多く、彼が何者なのかは映画だけでは分かりにくいので、そこをハッキさせたい人には小説版の補足が必要かも。 それらを知った上で、もう一度映画見たら、役者さんの演技や演出の理解度が上がりそう。 エンディングでの主人公の行動も、小説版のほうが明確になっていて、スッキリ終わる感じ。 Audibleとしての感想は、流石の梶裕貴さんで、聴きやすいし、キャラクターのセリフの演じ分けはもちろんの事、この作品の魅力のひとつであるホラー要素、怪異の表現も凄い。 ぜひ聴いてもらいたいですが、やはり映画を観てからが、オススメです。
  • 2025年9月29日
    乱歩と千畝
    乱歩と千畝
    細部まで丹念に織り込まれた史実が、フィクションに真実味を与える。大河ドラマのような傑作。 以下、ネタバレあり。 江戸川乱歩ファンなので手に取った。 故に、乱歩の年譜は頭に入っているので、最後どうなるかまで、乱歩側の〈あらすじ〉を知っている状態で本作を読む事になる。 が、だからといって面白くなくなるかと言えばそんな事は全くなく、むしろ知っているからこそ、「あ、来るぞ、あの人だな…!」とニヤニヤしながら楽しめる。 三国志や新選組モノも、結末がわかっていてもみんな大好きなように、作家がどこをどう描くかで、筋を知っていても充分面白い。 杉原千畝は、命のビザを発行し続けた偉人として、ドキュメンタリーをテレビ番組で観た事があり覚えていたが、周辺人物など詳しい情報までは記憶していなかったので、こちらは純粋に時代小説として楽しんだ。 元々史実がすでに面白い乱歩の人生ですが、特に面白いのは、やはり横溝正史との関係で、笑いあり、涙あり、二人の熱い友情に感動した。 作中、千畝のサインと違い、自分のサインでは命を救う事はできないと言った乱歩だけど、戦後、乱歩の作品に救われた子どもたちは沢山いたはずで、その子どもたちの中から、有望なミステリ作家が沢山生まれたことが描かれていたのもファンとして嬉しい。 乱歩が種を蒔いて耕した土壌から育った作家達が繋いでいくミステリ界の未来も明るく、読後感が良かった。 千畝を支えた二人の妻の存在も素敵だった。 先妻のクラウディアが言った、「優しいほうを選びなさい」が、あのビザを発行させたのだし、冷静かつ、時に非情な反対を強いられる仕事に着きながらも、自分を見失わずに済んだという事が胸をうった。 もちろん、乱歩の妻隆さんも史実をベースに、主役を支えるヒロインてして魅力的に描かれており、色んな意味でイイ奥さんだった。強い。 後半は、アベンジャーズか!とツッコミを入れたくなるくらいに、バンバンあの頃のヒーロー&ヒロイン(著名人)が出てくるので、感動より笑いが来てしまった。 そんな中、あの昭和の歌姫だけ本名が書かれなかったのは、権利関係的なNGでもあったのだろうか? と思うくらい、他は実名でめっちゃ出てくる。 次は誰だ?と、楽しかった。 そして、とうとう、乱歩の年譜に終わりが来る。 知っていても、胸を抉られた。これは泣く。 千畝と乱歩が最期に見た夢、そしてエピローグで二人を繋いだ本と、そこに並んで書かれた文字、二人のもしもを描いたフィクションが終幕し、読者が本を閉じると、仲良く並んで歩く二人の背中がある。 そんな演出が仕掛けられた素敵な装丁まで心にくい。 フィクションが多分に盛り込まれているとはいえ、歴史上実在した人物なので、朝ドラ「ばけばけ」が終わったら、「乱歩と千畝」やってくれないかなぁ。
  • 2025年9月29日
    殉教カテリナ車輪
    図像学×本格という稀有なジャンルの謎の中に織り込まれた超絶技巧の仕掛けたっぷり!満足度の高いミステリ。 春頃に読んだのが、大作過ぎて感想が遅くなってしまいました。 これがデビュー作というのだから凄すぎて語彙が吹っ飛ぶ。 この回の鮎川賞選考委員である、島田荘司先生、有栖川有栖先生、綾辻行人先生という、当時でも既に充分レジェンド級作家が、満場一致で選んだのにも頷ける。 ミステリとしての内容だけでも、凄い作品なのに、作中に出てくる絵画も本人によるものなのだから、あらゆる意味で反則レベルの作品。 私はまだ不勉強な身という自覚はあるが、幼少期から国内ミステリを少なからず読んできて、なぜ今まで読む機会がなかったのか、本当に謎。誰かに薦められたり、名作ランキングで見たりする機会が今まで無かったのが、逆に奇跡。 いやぁ、この本に出会えて良かった。 以下、ネタバレあり。(トリックや犯人については触れていないが、先に本を読んでから以外を読んで欲しい) 本作は、作中作の中に出てくる手記に真相が隠されている、という三重構造になっている。 まずは、現在の時間軸から始まり、美術館の事務員・井村の視点で物語は語られる。事務員が偶然見ていた図版を同館に勤める老学芸員・矢部が見たのをきっかけに、学芸員は「謎が、解けた」という不思議な言葉を漏らす。 それを機に、事務員と学芸員がミステリ談義に花を咲かせつつ、本作の魅力である図像学についても彼らの会話の中でわかりやすく解説される。 謎は解けた、というミステリ的な引きもありながら、図像学に関する講釈の内容自体も実に興味深く楽しいので、グイグイと話に引き込まれた。 謎めいた絵画、その作者である画家・東条寺桂の自殺、残された画家の手記……それらを追う学芸員の話。もうワクワクが止まらない。 そして、良質なミステリは、こういう序盤の会話シーンにも、重要な伏線を張り、結末に活かしてくれるものなのですよね。 次の階層は、学芸員・矢部視点。昔、絵のモデルが妻の若い頃に似ている事をきっかけに、東条寺桂の謎めいた絵に隠された意図を追った際の記録。 その画家とその絵を買い取った周辺人物たちの関係や、過去に起こった密室変死事件について探るうちに、東条寺桂の手記を手に入れて……という、ミステリ色がグッと強まる探偵パート。 自殺した画家の故郷を訪ねて、関係者にインタビューする様子が、ドキュメンタリー番組のようで、作中作という事を忘れて、東条寺桂が実在の作家のように思えてくる。作者本人が描いた絵画が、そのリアルさを強める効果があるように思う。 中核である階層は、自殺した画家・東条寺の手記……を、学芸員の矢部が活字化したもの。 手記には、東条寺が絵を描き始めた理由、東条寺に絵を教えたミステリアスな少女・佐野美香との出会いなどが記され、関係者から聞いていた話が次第に繋がっていく。 東条寺と美香の、プラトニックながらも絵の師弟や趣味の友人を超えた関係性も赤裸々に語られ、東条寺が美香に絵のモデルを頼んでいたことが明らかにされる。 そして手記の中盤、佐野美香が絵を出展した美術展の関係者が、ほぼ同時刻、別々の密室で変死するという事件が記される。被害者二人のうち一人は展覧会の審査員で、東条寺の義父である豪徳二。二人目の被害者は、美術展の受賞者・佐野美香。 二人は自殺となっているが、実はあの場にいた関係者の犯行で、同じ犯人、同じ凶器によって殺されたのではないかという推理がなされていく過程は、王道の本格ミステリで、嫌いな人はいないだろう。 そして、さまざまな憶測を整理し、作中推理を否定して、真相が語られ……ない。まま手記(この階層)は終わる。 しかし、それもそのはず。犯人もトリックも既に提示済みだから、ここで終わっているんですね。 その解説が以降に書かれるのですが、序盤でこの手記を事務員・井村に読ませるにあたって、手記は手書きで癖があり読みにくいからワープロで打ち出しておいたと説明されていたが、それを素直に信じて読むミステリファンは少ないでしょう。問題はこの件が、どう活かされてくるのか、であり、その引きも上手い。 手記に何らかの仕掛けを警戒しながら読み進めると、所々違和感を感じたり、辻褄が合わないように感じる部分に引っかかるのだけど、その違和感が最後に判明した時の爽快感は、読んだ者同士で握手したくなる。こういうの大好物。未読の方はぜひ体験してもらいたい。 そして、その手記の仕掛けの部分、井村君には伏せられていたけれど、読者には隠されていたどころか、めちゃくちゃバーンてわかりやすく目につくところにあるのが最高です。 この文章どっかで……ここじゃん!てなるし、その文章で犯人も自動的に1人に絞れる。 本当、最高ですね。 エピローグの切ない感じとか、色々なやるせなさとか、読後感が尾を引く印象的な人物描写も作品の魅力だと思いますし、選評では矢部さんが好評だったようですが、私のお気に入りは井村君です。 矢部さんとの関係性も、お互いのミステリ好きでその知識を信頼しあう歳の離れた友人のようでありながら、犯人と探偵ようでもあり、ただの職場の同僚という微妙な距離感がいいです。 なんというか井村君は、この濃厚な作品の中で、それを暴く立場の彼があっさりとしたキャラなのが好きで、「僕は普通の事務員です」のセリフ、解決編の推理パートだけでなく、冒頭でもちゃんと言わせてあるのがいい。 オリジナリティ溢れる図像学という素材、王道の本格ミステリ的密室の謎、細部まで張り巡らされ綺麗に解ける仕掛け、私の好きなタイプの探偵役とそれを解いてくれると信頼して仕掛ける犯人という構図、めちゃくちゃ私の好みど真ん中な作品でした。 久々に、名刺代わりの好きなミステリ作品ラインナップ上位に追加する作品が現れました。 このような素晴らしい作品と出会えて嬉しいです。
  • 2025年8月1日
    死んだ木村を上演
    死んだシリーズ3作目。設定、演出、台詞回し……まさに金子劇場!! 死んだシリーズは続きモノではないけど、死んだ〇〇が、生きている側に強い影響を残しているという共通点があるので、奇抜な設定と反対にシンプルな生と死が凝縮して描かれ、あっというまに読めるのに、毎作読後感が尾を引く。 いや、ホントに謎の読みやすさ。 クセが無い訳じゃない、むしろクセは強い文体(特にセリフに台詞をかぶせるのとか、数ページ跨ぎの台詞だけのやり取りなんかは紙面が文字でギチギチ)なのに、いつのまにか読み終えている。 テンポ? 疾走感? 肌に合うから? 理由はよくわからないのですが、毎度面白く読めています。 今回の設定も面白い。 大学の演劇研究会元メンバー4人に送られて来た脅迫めいたDM。 八年前に自殺した仲間の死の真相を探るため、自殺した場所に集まり、当時を可能な限り再現して〈上演〉する事で、4人はお互いや死んだ木村について深く知っていく……。 なので、途中、戯曲(脚本)のような演出がされていて、それも視覚的に面白い。 途中までは、映像化したら(役者は大変だろうけど)面白いだろうな〜と思っていたのですが、アノ仕掛けは無理ですねw ミステリ好きにはちょっと嬉しいサプライズ。 そして、中盤の地獄絵図を乗り越えての、フィナーレは、待ってました!の金子劇場。 死の真相は多分そうだろなぁとは思っていたけど(あまりにも序盤から色々散りばめられていたので)、だからこそ王道ストレートな展開で満足出来るというか。 こういう青春の残火みたいなノリが好きなんで、そこを変に外して来ないのが3冊目となると安心して読める。この作家さんの色というか、シリーズに求めるものでもあるので。 とにかく、今回も面白かったので、次回作も読んでみたい。 今メフィストで連載中の作品は死んだシリーズじゃないポイので、今までと違った色やテーマのものでも楽しみです。
  • 2025年7月31日
    死んだ石井の大群
    よくあるデスゲームもの、、、と思いきや、しっかりエンタメしている。 前作『死んだ山田と教室』が面白かったので読んだ。 文体も軽く、漫画みたいにスルスル読めるのでありがたい。 序盤は普通にデスゲーム。 理不尽にゲームに参加させられる333人の石井さん。 首輪は『バトルロワイヤル』、同じ苗字は『リアルおにごっこ』、子どもの遊びになぞらえたゲームは『神さまの言うとおり』……などなど、読んでいる最中は色んな既存作が頭を過ぎり、逆にここからどうやってオリジナリティを出してくるのか……と期待した。 前作も前半は男子校のおバカなノリにちょっと切ない青春小説からの、後半は死ぬこと生きることの意味を問う胸熱展開だったので、「このままただのデスゲームでは終わらないよね〜?」と。 その期待通り、デスゲーム参加者の一人でもある石井有一の失踪事件を追う探偵・伏見と蜂須賀の視点で、既存作との類似も作中で指摘され、石井有一の人となりも次第に明かされていき、「ですよね〜」と期待に応えた展開と、収束していく伏線をニコニコ見守らせてくれた。 後半に描かれたメッセージ性は、前作に共通するものがあるので、この作品から入った人は前作を、前作を気に入った方は今作も、ぜひ読んでほしい。 次は『死んだ木村を上演』を読もうと思います。
  • 2025年7月25日
    切断島の殺戮理論
    某メフィスト的な匂いのする、ある意味問題作な民俗学ミステリ。 民俗学×孤島という段階でミステリ好きの心くすぐるド定番食材なので、そこにどんな文化やルール、因習を持ってくるかが作家さんの色になるわけですが、欠損を美徳とする文化というのは中々尖っていて良いなというのが読む前の印象。 そこで殺人事件が起こり、もちろん孤島はクローズドサークル。それもド定番。 そこから何をしてくれるのか……と期待したら、なんだってwwwという予測不能な現象が主人公の身に起こり、この作品に向き合う姿勢(体勢)を変えさせられたw 以下ネタバレ。 正直、真犯人は事件が起こる前から違和感が沢山提示されている(真犯人との会話もね、島の人間なんだろうなって要素散りばめられているし)ため、簡単に見当がつくようになっているので、途中の超展開で「ああ、そういう系でしたかw」となったら、「え、てことは、あの約束って……」というところに興味が移って、最後まで楽しく読んだ。 とはいえ、ミステリは犯人当てゲームではないので、作中言われているように結末だけ見たら解るのに本文も読むのは、過程が見どころだからです。 次々に起こる殺人事件と、主人公達によるダミー推理が面白い。(というか、ダミー推理の方が正統なミステリ的かもしれない) 事件の核心に、美的感覚の違いだけでなく、二つの種族の欠損箇所の違いが活かされていたり、何故島の人間でない被害者の欠損が必要だったのか、など、ミステリとしても楽しく読めた。 ストーリー展開的にも、孤島から無事に脱出できるのかとか王道だけど、やっぱそれが異文化社会の孤島モノの醍醐味で、そこも超展開含めてどうなるんだろってワクワクできる。 余談ですが、あの状況から主人公補正の無い推しが島を出られて(その後も元気そうなのが確認できて)良かったです。 あの約束の結果(行動自体)は予想通りでしたが、グロテスクなホラーエンドを予想していたので、随分アクロバットな方法で一瞬だったのは予想外過ぎたw(寄生獣的な画だったな) 賛否分かれそうだけど、とにかく、色々ぶっ飛んでて読んでて楽しかった! これ、古き良きあの頃のメフィスト賞の匂いめっちゃする……と思ってたら、そういう評価ちらほら聞いて、だよね!ってなった。 続編ありそうなエピローグだったので、あるなら是非読みたいです。
  • 2025年7月25日
    怪人デスマーチの退転
    旅情ミステリ要素も楽しい、返却怪盗シリーズ二作目。 前回は閉鎖的な場所での事件だったけど、今作は国内屈指の観光都市・金沢が舞台ということで、金沢の名所や名物の描写が盛り沢山。 兼六園や茶屋街、ビブリオバウムなど、行ったことある人間としては読んでる最中ずっとニコニコです。 名探偵、刑事、弟妹など、前回からのクセの強いキャラ達の再登場も嬉しく、やりとりを微笑ましく読んでしまう。 なんといっても、謎が魅力的。 前回も玉手箱は魅力的な謎だったが、今回の金箔本も、前回以上に興味を惹かれる。 薄い金箔で作られた故に、開いてしまうと元に戻せないという本の中身はなんなのか。 何故読めない本を作ったのか。 初代怪盗は中身を読んだのか。 など、ワクワクする謎に引っ張られて、スルスル読んでしまう。 殺人事件の方は、それほど期待して読んでいないのもあって、そんなに印象的では無かったけれど、殺害方法はユニークで、動機も西尾維新らしいので、ファンとしては満足でした。 次回はシリーズ三作目にして、一旦完結と言われているので、三兄弟たちがどうなるのか楽しみに読みたいと思います。 今回はAudibleで再読したのですが、前作とナレーターさん代わっていたんですね。あまり気になりませんでしたが、今回の方もとても良かったです。 特に主人公の地の文での脳内ツッコミや、怪盗と怪人の兼六園での会話シーンが良かった。 若い男性の声も素敵な方ですが、怪人の変装してる状態でのお声、めっちゃ好きです。
  • 2025年7月22日
    怪盗フラヌールの巡回
    久々に読んだけど、やっぱり西尾維新らしさ全開で懐かしかった。 しばらく西尾維新作品を読んでいなかったのですが、人物名が、文体が、西尾維新!て感じで、著者伏せられても解るくらい西尾維新(何回言うの) 実在の地名なんかも出てくる現代舞台の話だけどフィクション的で、マンガを読んでるみたいな感覚でテンポよく読めるし、戯言シリーズを追いかけていた頃が懐かしくなった。 有名な怪盗であった父の汚名を返上するため、盗んだ盗品を元の場所や持ち主に返す二代目、〈返却怪盗〉という設定がまず面白い。 また、世を忍ぶ仮の姿として記者をしている主人公、父の親友であり初代怪盗のライバル刑事、警察から出禁をくらっているクセつよな名探偵、父が怪盗であると知り、家族バラバラになった弟妹……など、キャラも魅力的で流石。 海底にある大学兼研究施設という舞台で起こった密室殺人事件……という、魅力的な謎もフックが強い。 どんな研究が行われていたのか、関係者たちは何を知っているのか……徐々に明かされる秘密に、読む手が止まらない。 ミステリ部分は、本格的なトリックや緻密なロジックによる推理、納得のいく動機を期待して読んでいないというのもあるけど、そのへんもアクロバットで西尾維新らしい。 ミステリとして一番魅力を感じたのは、やはり玉手箱の中身について。こういうの上手い作家さんだよなぁと。 ラストで次回作があるんだろうなという展開になっているので期待。 あとがきもよかった。 今回、Audibleで再読したのですが、独特な単語やルビの遊びは、音声だと全ては伝わらないのが残念なのと、同じセリフを90回以上繰り返す表現は音声だとキツイものがあるw ナレーターの方大変だったろうなw 個性的な女性キャラも多かった作品だけど、男性ナレーターさんが上手く演じ分けていらしたので、とても楽しめた。
  • 2025年7月19日
    図書館に火をつけたら
    図書館に火をつけたら
    ほろ苦い青春の残り香を感じる、ライトなミステリ。 図書館で火災が発生。 密室状態の地下書庫から発見された遺体は一体誰なのか? 犯人はどうやって、密室を作り上げたのか? この事件を起こした目的は? という魅力ある謎に加え、密室の図面、読書への挑戦状、と、ミステリ好きホイホイな要素満載の一冊。 文章も軽く、人間関係も複雑では無いので読みやすい。 図書館の裏側的な豆知識もふんだんに織り込まれ、図書館好きとしてはニヤニヤできる。 消火作業で濡れた本の復元の場面は、震災の津波で濡れた本の復元ドキュメンタリーを思い出した。あれと同じ苦労があるのを思うと、フィクション内の司書さんたちを応援せずにはいられない。 主要人物である幼馴染3人の、居場所としての図書館というのも共感できる。 不登校だけでなく、大人になった今も、日常の生活から離れたい時に、気軽に行ける大事な場所でもあるので、利便性や回転率重視の改革をする館長に反発する気持ちもわからないでは無い。 けれど、最後に盲目のおばあちゃんが言っていたように、改革によって蔵書量が増えて点字や朗読CDなどの本が増えたという利点もあったりするので、誰かとっての悪は誰かにとっての善と、保守派、改革派、両方の良さを取り上げてあるのには好感が持てた。 ただ、ミステリとしては、期待し過ぎた感があり、トリック、消去法のロジックともに、「それだけでは厳しいのでは?」と頭に浮かぶ点も。 それと、主人公の職業は警察ではない方が良かったんでは? と思うほど、推理も捜査もユルイので、「それはちょっと……」という感想を抱かせてしまった。 とはいえ、筋は通っているので、作中で指摘されていない以上、納得できる結末ではあるし、上手くまとまっていて、綺麗なラスト。 幼馴染3人の関係性やテーマ的に、小中学生に読んでもらいたい話。 夏休みの読書にもオススメ。
  • 2025年7月17日
    文庫 豆腐の角に頭ぶつけて死んでしまえ事件
    ちょっと変わったミステリを色々読みたい人向けのバラエティ豊かな短編集 まずタイトル一本釣りでズルいw こんなタイトル思いつかないでしょ。 色んな味わいの短編集で、全体的に「何故?」の引きが強くサクサク読める。 そんなんアリか、なんじゃそら、ってツッコミながら読むのも含めて楽しい一冊。 少し大人になった猫丸先輩の短編も入っていて、久しぶりにあの飄々とした感じを読めて懐かしかった。 各話の感想は以下。(微ネタバレ) ①変奏曲・ABCの殺人 序盤にオチは読めるものの、ブラックユーモアミステリの短編として秀逸。こういうの好き。 ②社内偏愛 SFショートショートの味わい。マザコンが良いキャラしている。世にも奇妙な物語で映像化されそうな話。 ③薬味と甘味の殺人現場 いやコレどういう状況で死んでんだ?ってなる現場から、明らかにソレをした犯人がいる訳で、なんでこんな事を……を考える過程が楽しかった。 理由に納得いくかは賛否分かれそう。 ④夜を見る猫 急に舞台と描写でほっこりさせてくる。倉知作品にこういうイメージ無かったので意外。 事件自体はほっこり出来ない、妙に生々しいオチだったけど、おばあちゃんのキャラと猫ちゃんがそれを癒してくれるから読後感は良い。 ⑤豆腐の角に頭ぶつけて死んでしまえ事件 前話でほっこりしたと思ったら急に舞台が戦時中になってビックリ。 タイトルにあるように、遺体の近くにぶちまけられた豆腐が謎になるんだけど、作中の推理が豆腐凍らせて殴ったとかじゃないのが楽しく、なにソレwってなった。 オチは、コレも好み分かれそうだけど、ストレートに一件落着なのよりいいかな。 ⑥猫丸先輩の出張 久々の猫丸先輩シリーズ。この話だけボリュームが違うし、ちゃんと本格ミステリなので、ラストを飾るに相応しい感がある。 被害者がバケツを落とされて殺されかけたというユニークな謎、細かい伏線とミスリード、アリバイ検証、トリック解明の後にもう一段オチがあるのも嬉しい。 飄々と事件の真相を見抜き、産業スパイにされかけた後輩の濡れ技を晴らす、名探偵としての手腕もさることながら、ユーモアと毒舌も健在で、会話文や地の文のツッコミが読んでいて楽しかった。 万人に薦められるかというと、少々癖は強いけれど、総合的にあまり堅苦しくなく気軽に読めるミステリなので、普通のミステリに飽きたらどうぞ、と言いたい。 今回、Audibleで再読したのだけど、ナレーターさんが、大河元気さんでビックリした。 2.5次元ミュージカルで知った俳優さんだったけど、こういうお仕事もされていたのか……と。 そして、めちゃくちゃ上手かった。 特に、④の田舎のおばあちゃん役と⑤のマッドサイエンティストな博士役。最高でした。ぜひ聴いて欲しい。
  • 2025年7月16日
    死んだ山田と教室
    青春のすべてを賭けた<初恋>みたいな真っ直ぐな友情に心が震えた。 初読は『mephisto 2023特別号』で。 Audibleにて再読。 まず、奇抜な設定がこれぞメフィスト賞!って感じで良い。 文体は軽快でさくさく進む。 男子校のおバカなノリに笑わせられ、特に誕プレ大会の和久津君からのプレゼント再生のくだりは腹が捩れるかと思った。(Audibleで再読した時の破壊力よ) 人によってはこのノリ(下ネタとか)についていけなくて脱落したという声も聞くけど、さすがにメフィスト賞ですよ。ずっとこのノリなだけじゃないですから。 以下はネタバレ。 序盤でしっかり文量取って二Eの仲の良さを描写してあるから、学年が上がったり卒業したりしていくクラスメイトと、時間が止まったままの山田君との対比が切なくて、でも妙にリアルで、だから悲しくて……。 その取り残されていく山田君をずっと大切に思っている和久津君のストイック過ぎる頑張りと、二人が友達になるきっかけが次第に明かされていく後半は、軽い文体に反して心がギュッとなる。 教室という空間の息苦しさに自分も覚えがあって、山田君にも和久津君にも共感してしまう。 和久津君が再び学校に戻ってきて、また話ができるようになっても、お互いにお互いがコイツだけ(山田君は状況的に、和久津君は精神的に)だという状況でも、お互いの立場や気持ちが想像できていなくて、微妙にすれ違っているのも辛い。(特に山田君側からしたら、頑張ってるのは解るけどあまりにもだよ……) 一目惚れみたいな出会いからずっと一緒にいられたらと願った相手を一度失って、奇跡的にまた戻ってきたんだから二度と手放したくないと思ってしまうのは仕方ない。 そうなると、もう友情とはいえなくて、エゴだし、執着でしかないけれど、それでも、自分を救ってくれた相手を救いたいから手放す決意をしたのは、偉いし凄い。 その描写の熱量に読者の瞼も熱くなる。 死の真相を最初から知っていたことや、今までの行動が繋がる部分は、ミステリ的なオチとしても満足。(あの爆笑回の裏でそんなことを……) メフィスト賞は必ずしもミステリである必要は無いとはいえ、そこは期待してしまうので。 ラストがタイトル回収的なのも好み。 サクッと終わるので、余韻がエグいというか感情の行き場に困るw 後日談は知りたいという気持ちと、この余韻がこの作品らしさ、という気持ちの両方あるので、他のメディアミックスがあるならどうなるのか期待。 2周目を読むと、冒頭のインタビュー(?)が、どれが誰のコメントなのか解るのも味わい深い。 そして、Audibleで気づいたけれど、mephisto版と単行本で微妙にコメントの順番変わっていたり、特に和久津君と思しきコメントが違っていて、単行本版での動揺でぐしゃぐしゃのコメントの中身はこう言いたかったんだなってmephisto読み返すと解るし、結末読んで二人の関係性知った後だから胸に刺さる。 けど、単行本で修正された方の、このぐしゃぐしゃのコメントしかできないのが嗚咽まみれで答えている感じがして良い。 生かされてきたんだよね。一緒に生きたかったよね……。 あと、本当Audibleで再読して良かった!! 前半めちゃくちゃ面白かったし、後半は紙で読んだ時には堪えた涙が決壊しました。 朗読の方、お疲れ様でした!
    死んだ山田と教室
  • 2025年7月7日
    世界でいちばん透きとおった物語2
    続編可能なの?と思って手に取った。 話題になった前作より好き。読んでよかった。 女性編集者と新人作家の〈僕〉が、二人組のベテラン作家の片方の急死により連載中に絶筆となってしまった作品の真相と周辺に浮かぶ謎を追うミステリ。 結末を書いた原稿やメモは残されていないか、誰かに続きのアイデアを話していないかなど、周辺を調べていくうち、二人の不仲説など色々な事情が浮上していく。 残された片方の作家が続きを書こうとしないのは何故なのか。 このまま作品は未完で終わってしまうのか……という引きが上手く、ページを捲らせる手を早める。 真相が隠された作中作の謎が今回の仕掛け。 前作のような仕掛けを期待する人には物足りないかも知れないが、前作も仕掛けは帯バレしていたので、今回もそこは個人的に重要な要素ではなかった。 私にとって大切なのは前作同様仕掛けた理由の方で、〈たった一人のために存在する物語〉という、シリーズに共通する大切な部分はちゃんと続編にも受け継がれていた。 真相を知る者以外の読者の目には映らない優しい物語。 文章が読みやすいのに美しく、読後感もよい。 前作を上手くボカシているので、なんらかの事情で2を先に読んでしまっても安心。
  • 2025年6月27日
    秋期限定栗きんとん事件 下
    約1年間の恋と事件によって、別れ道が再び交わる三年生の秋のお話。 二年生の夏に互恵関係を解消し、それぞれ別の恋人と学生生活を歩んできた小鳩くんと小佐内さん。 その〈普通〉で平和な〈小市民〉的日常が描かれるのと並行して、次第にエスカレートする連続放火事件。 小佐内さんの恋人・瓜野くんが、新たに新聞部部長になり、放火事件を深追いしていく。 張り切る瓜野くんを応援する小佐内さんだが、その裏には何かありそうで……。 一方、小鳩くんも新聞部の元部長である堂島くんと事件を追ううちに〈謎解き〉をすることになり、せっかく手に入れた普通の学生生活に亀裂が生じていく。 さらには、放火事件の裏に小佐内さんの影もチラついて……。 放火事件の犯人は? 動機は? 小佐内さんの行動は……? そして、その先にある登場人物の関係はどうなるか……! というのが下巻の内容。(以下ネタバレ) 正直、賛否別れそうな読後感。 春の時のような日常の謎は小鳩くんと仲丸さんの会話の中で少し入るが、次第に大きな謎が姿を表して繋がるという前作までと違い、ほぼ全編通して放火事件を追う形になるので、ミステリ好きの読者の思う謎解きはこちらに期待されるが、放火事件の犯人と動機については早いうちに見当が付くようになっていて、犯人も動機も読者の期待と興味から離れており、事件の真相を明かされても「ふーん」という感想にはなるかも。 ただ、この作品の一番の謎はそこではなく、何故彼女は……という部分なので、それが明かされる過程が放火事件解決後に描かれる。 そのネタバラシをどう思うかが、賛否別れそうだと思った所。 マロングラッセと栗きんとんの説明が効いていて、タイトル回収な締めくくりは上手いし流石。 あと、この最後の一文オチを、笑える人とエグ味を感じる人がいて、私は後者だった……えっぐい……。 狼に噛み付いたヤツが悪いって事なのだけど、羊の皮被って近くに置いておいて、この仕打ち……騙された仔犬が可哀想だろ……。 この作品で準主役と準ヒロインだった二人のその後が幸福でありますように。 このシリーズ、多少飲み下し辛いエグ味はあれど、物語としては面白いので最後まで読むつもりなのだけど、堂島くんだけが心のオアシスなので、冬季や巴里でも、変わらずにいて欲しいものです。
  • 2025年6月26日
    秋期限定栗きんとん事件 上
    シリーズ初の上下巻の分冊。下を入手してから読むのを推奨。 互恵関係を解消した夏の事件以来、学校でも疎遠になった二人の、それぞれの恋と青春を描くシリーズ三作目。 両者ともそれぞれに恋人ができ、その進展が描かれる。 二人が別々に学生生活を過ごすので、従来の小鳩くんの視点に加え、新たに小佐内さんの恋人である瓜野くんの視点が追加され、彼の目から見た小佐内さんが描かれる。 新聞部である瓜野くんを応援する小佐内さんと、放火事件を追って張り切る瓜野くんの交際は、小佐内さんの手のひら転がし感が可愛く微笑ましくもあるが、あくまで小佐内さんの内面はミステリアスなままなので、絶対何かあるぞ…という期待が読者の中で高まる。 一方、クラスメイトの仲丸さんと交際し普通を手に入れた小鳩くんも、幸せなはずなのに何か足りない感じで描かれ、二人の関係がどうなるのか目が離せない。 この作品は上下巻通して、二年生の秋から三年生の秋という長い期間のお話。 その間、新聞部の追う放火事件が次第にエスカレートしていく。 小鳩くんの友人で新聞部部長である堂島くんの協力のもと小鳩くんも事件を追うことになり、やがて事件をきっかけに別れた道が元の一本道に戻るように繋がっていく……。 事件の犯人も気になるが、それ以上に登場人物達の関係性がどうなるのかが気になり、ページを捲らせる手を早める……が、下巻に続くのである。
  • 2025年6月25日
    漱石先生の事件簿 猫の巻
    落語を聴いてる気分でクスッと笑える。Audibleでぜひ! タイトルは『漱石先生の』とあるが、『吾輩は猫である』のパスティーシュ。 『吾輩〜』に描かれたエピソードの裏側や隙間を埋めるような事件を、書生の〈僕〉が解き明かすという日常の謎の連作物語になっている。 事件の内容も、原典のエピソードや人物を変えずに「なるほど」となるのが流石。 元々『吾輩〜』自体が漱石周辺の人間をモデルに書かれた話なので、この話の〈先生〉は漱石と苦沙味先生、どちらを想像しても読める。(もちろん脚色されたフィクションとして) 『吾輩〜』を読んでからだと2倍楽しいが、この作品だけでも面白いので、この本を読んでから『吾輩〜』を読むのもアリ。 漱石自身や周辺の人間関係を知っていると、モデルになった人物と比較できたりして、3倍楽しい。 遠出の共にAudibleを聴いたのですが、ナレーターの方がとても良くて、登場人物の演じ分け、軽快な文体にマッチした絶妙な語りのテンポ、大変心地よく、ふふっとなりながら聴かせていただきました。楽しい時間をありがとうございます!
  • 2025年6月24日
    切れない糸
    やっぱ日常の謎モノを書く作家で一番好きと実感。 ある事情で実家のクリーニング店二代目となった主人公・新井和也が持ち込む謎を、主人公の大学の友人で喫茶ロッキーの店員・沢田が解き明かす日常の謎短編連作集。 ひきこもり探偵と似た感じのテイストではあるけれど、毎回クリーニングにまつわる謎になっているのが凄い。 探偵役とワトソン役の関係性が次第に変化していく過程も良いし、商店街に住む他の登場人物も魅力的で、人と人の繋がりを書くのが本当に上手い作家。 だから、最後にタイトルの『切れない糸』に感動する。 10年以上前に買って読んだきりで、先日長距離走る予定があったので、久々に「どんな話だったっけ?」と思ってAudibleで再読。 『先生と僕』シリーズや『ホリデー』シリーズが大好きなので、元々好きな作家でしたが、「何で続編ないの⁈」ってなりました。沢田君のその後が気になり過ぎる…。
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