
doji
@doji_asgp
2025年9月30日

BUTTER
柚木麻子
読み終わった
カポーティが『冷血』を書いて精神のバランスを崩してしまったように、ありえたかもしれない可能性をめぐって作家と囚人がこころを通わすものがたりがほんとうに好きだなあと、噛み締めるように読んだ。『冷血』とは異なるジェンダーを中心に描いていることで独自の重層的な厚みがうまれている。憧れや不憫さ、敵対心と憐憫、それらをひっくるめて愛と呼べるような、渦を巻く感情のなかで、だれひとり登場人物はかつてのじぶんではいられなくなる。読み終わったあとに、ここまで来たんだなと、感じてしまうほど。
たぶん、ラストの七面鳥を焼くシーンは、構図だけ用意してあっさりと描写するだけで終わらせてしまう作家もいるような気がする。それをちゃんと三日かけてじっくりとつくる過程を描くところに、料理をすることへの距離感につねに向き合わされてきた女性たちのものがたりの必然的なラストとしての重みがあった。ぼくは男性として生まれたけれど、主人公が「ひとり」でいることを受け入れながら友人たちを招き入れる人生を選ぶことに、なんだか憧れのようなこころの震えがあった。



