CandidE "闇の奥" 2025年9月29日

CandidE
CandidE
@araxia
2025年9月29日
闇の奥
闇の奥
ジョウゼフ・コンラッド,
黒原敏行
めっちゃいい、めっちゃ面白い。訳もわかりやすい。読後感がボワボワして素晴らしい。構造がスマートでとても素敵。 虚構の連鎖と意味の増幅装置の中心に「闇の奥」はあって、それは深淵であり、無限だと思った。The horror! ーーーーー 以下、ネタバレを含む。 ーーーーー 『闇の奥』は、理解の届かぬまま進んでいく、その物語構造自体に魅力がある小説だ。 クルツは実像ではなく伝聞によって膨張し、最後まで輪郭を結ばない。読者は説明を与えられず、ただ宙吊りにされる不穏のみが募る。この「不完全さ」こそが、逆説的に作品の完成度を高めているように強く思う。 例えばこの構造を象徴するのが、ジャングルの奥地に突如現れるロシア人。弓矢の雨をかいくぐって登場し、クルツの使者かと思えば、単なる信者であり、ただただ狂気に魅せられた若者にすぎない。その「脈絡のなさ」が小説全体をぐらつかせ、不気味な余白を生む。秩序への期待を攪乱する異物の登場によって、クルツはもはや「人物」ではなく、「信仰や噂を増幅する装置」として機能する。実体は遠ざかり、神話が肥大化していく。 そして終盤にて、クルツはついに掴みどころのないまま舞台から退場し、物語は見事に宙吊りまま幕を閉じる。説明を求める欲望そのものが物語を駆動し、その軌跡は入れ子のように無限へと開いていく。読者は奥へ奥へと進むが、あるのは新たな謎だけだ。 虚構の連鎖と意味の増幅装置の中心に、「闇の奥」は存在する。それは深淵であり、無限である。このホラーめいた構造こそ、本作を秀作たらしめる美しさだと私は思う。
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