
common house
@commonhouse101
2025年10月3日

色と形のずっと手前で
長嶋りかこ
再入荷
@ common house コモンハウス
グラフィックデザイナーの長嶋りかこさんが、仕事はおろか生活すらもままならない妊娠・出産・子育ての日々の合間を縫って携帯電話のメモ機能で残した苦悩や葛藤、愛、そして社会の歪み。その個人的な記録をもとに綴られたエッセイ集です。
“子が寝た暗闇の中で、やっといけたトイレの中で、こども園からピックした抱っこ紐の中で寝かしつけた子を事務所のベッドに向かって静かに急ぐ早歩きの中で、クローゼットでひとしれず涙を流す中で。自分を確かめるように、自分を守るかのように、自分を形作るかのように、自分を知るかのように、誰に見せるでもなく、見えない色と形を残していった。”
本書を読んだとき、当店に通ってくれているお子さん連れのお客さんたち、妊娠中の友人、育児中の友人、そして数十年前の母の姿が思い浮かびました。あの人は、友人たちは、母は、どうやって育児と仕事を両立している(していた)のだろうか。
長嶋さんが産後から“私が私のままでいられない”と感じ、そして現在進行形で変化し続けていると綴ったように、私から見えている周囲の人たちの育児もこれまでの長い苦悩や葛藤や喜びや癒しの集積であり、それと同時にほんの一瞬でもあり、また同じ状況にいるように見えてグラデーションが少しずつ異なっていて、常に日々変化し続けていることに気がつきました。
ひとりの個人的な記録を読んで、自分の身の回りの小さな円のなかにいる人たちの生活を思い浮かべ、さらにそれは社会の構図にもつながっているのではないかと想像してみることができる。子育てと仕事を両立するなかでみえた家父長的な価値観やそれを肯定し続けている社会は、さまざまな境遇の人の背中に重くのしかかっているのだと感じます。そして、一男性としては、それは男性的価値観によって男性にとって都合が良いようにつくられてきた(にも関わらずそれは時には男性をも苦しめる)のだと、最近はよく考えています。
長嶋さんのデザイン事務所villageに新設した出版部門「村畑出版」から刊行し、装丁およびデザインも長嶋さんご自身が手がけられた本書は、表紙には古紙・森林認証紙を使用。本文には、第1刷~第3刷まで廃棄対象となる可能性のある用紙を使用し、今回の第4刷からは古紙パルプ70%配合の「OKプリンス上質エコグリーン」を使用し、環境負荷への軽減がなされています(当店到着時の包装紙や緩衝材も、印刷の際に出てしまうヤレ紙や段ボールが再利用されており、それでいてとても美しく梱包されていました)。
(店主M)

