
ユメ
@yumeticmode
2025年9月11日

横顔と虹彩
一穂ミチ
読み終わった
心に残る一節
感想
『イエスかノーか半分か』本編や『OFF AIR』を読んだ時点でも好きだったが、この『横顔と虹彩』を読んだら皆川竜起というひとへの好感度がいっそう増した。
「お世辞に対しては、言うよ。『いやーそんなまだまだっすよー』とか。でもなっちゃんは今、俺に嘘言ったわけじゃないでしょ、俺に実況が似合うって、本心から思ってくれたんじゃん?だから俺もつまんない嘘で濁さない」とか、「ひとりでふんばらなきゃいけない時に支えてくれんのは、誰かが助けてくれた思い出じゃないの?手ぇ貸したら甘えるとか勘違いするって、それこそ本人の問題だし」とか、竜起の台詞にはハッとさせられる言葉も多く、こういうことを何のてらいもなく言える性格だからこそ潮や計ともうまくやれているのだろうなと思う。
かつて計に手を出そうとして潮に叱り飛ばされたときの台詞が、ちゃんと竜起の心にも響いていたのだと分かったのもすごくよかった。あの言葉をきちんと反芻していた竜起が、なっちゃんと出会って新たな恋を始められたことがとても嬉しい。二人が惹かれ合ってゆく過程が双方の視点から描かれており、キュンとした。竜起の告白の手段も、それに対するなっちゃんの返事の仕方も好きだ。
私もどちらかというとなっちゃんのように人付き合いに対して臆病になってしまう方だから、「引き算のない、自分だけで完結した気持ちが大切だった。マイナスにはならないけれど、ゼロからの先もないはずの場所に竜起が飛び込んできて、足したり掛けたりが生まれた。その幸福を、これからも何度だって思うだろう」という文章には胸を掴まれた。こんなふうに心奪われる言葉に何度でも出会えるから、一穂ミチさんの作品を読むのはやめられない。
