彼らは読みつづけた "海と旅と文と" 2025年10月4日

海と旅と文と
海と旅と文と
山本善行
*読書で見つけた「読書(する人)」* 《作者の分身とおぼしき主人公の日常生活は格別どうということはない。それでいて読めば不思議に心がなごむのである。慰めも得られた。なぜだろうと考えることを私はしなかった。上林さんの文章が私に与える平和で充分だった。「夏暦」を読み終えて、暮れ方の町へ出たとき、家並も店の明りも妙にしみじみと目に映った。いつもは三冊ばかり図書館で読み上げなければ物足りない気がするのだったが、その日は「夏暦」の短篇群を一作ずつゆっくりと目を通した。合間に本を伏せて図書館の庭を散歩した。閲覧室には私の他には学生が一人か二人しかいなかった。ページを繰る音が聞えるほどの静かさだった。もうあのように理想的な環境で、本を読む機会は訪れないだろう。》 — 野呂邦暢著「上林さんを訪ねる」(上林曉著/山本善行編『上林曉の本 海と旅と文と』2025年3月、夏葉社)
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