saeko "強いビジネスパーソンを目指し..." 2025年10月5日

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@saekyh
2025年10月5日
強いビジネスパーソンを目指して鬱になった僕の 弱さ考
やさしいお守りのような本だ。主旨は最近読んだ『東大生はなぜコンサルを目指すのか』や『物語化批判の哲学』と共通していて、資本主義社会において社会人として成長し続けなければならないという価値観を内在化の強制や、世界の複雑さを単純化するために無理やりな因果関係や物語を設定させられることによる自己認知の歪みなどに対する問題提起になっている。 一方で異なる点は、他の作品では著者がある種外部的な立場から冷静に分析したり、怒りやフラストレーションを元に批判をしているのに対して、本書の著者は激務によりうつ病を発症した当事者であるため、向き合い方に切実さや悲しみが滲む。ゆえに同様の問題に苦しむ読者に向けての寄り添いの意識が感じられる。望んではいない競争に投げ込まれてしまったけれど、その中を生き抜かなければならない人々に対して、どうしたら自分の心を守ることができるのかを伝えようとする模索の書であり、そのまなざしがとても優しい。 子どもの頃から将来の夢を表明させられ、それに向けた効率的な努力を志したり、もっと生産性を上げるための能力の向上を求められたり、そのような直線的な成長が求められているわたしたちの状況は、決してそれが真理というわけではなく、あくまで市場経済というゲームの中で便利な形であるためであると看破する。 だからといっていまある社会の形を変えられるわけではないけれど、そもそも能力は人の中に内在するものではなく、環境との相互作用によって発揮されるものである、という考え方や、人生とはなんらかの目標を目指して右肩上がりになっていくのを目指すのではなく、同じ営みを繰り返す円環的な在り方があるべきなのではないか、という、刷り込まれてきた価値観を覆してくれる主張の数々が印象的。 仕事に疲れたとき、少しページを捲るとその時々に適した示唆が得られそうな一冊だ。
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