
roiban
@roiban
2025年10月4日

恐怖とSF
日本SF作家クラブ
読み終わった
良かった。ホラーSFアンソロ。井上雅彦先生がまえがき、あとがきとおそらく各参加者紹介も手掛けられていて、このシリーズ随一のアンソロとしてのまとまりの良さ。時節柄AIが絡んだものが目立つ。(以下ネタバレで時に気に入った4作)小田雅久仁「戦場番号七九六三」は人類社会が侵略を受けてなすすべなく崩壊が始まる日を、大阪梅田から語り手が目撃する。後半で展開されるSF的ビジョンがどこか懐かしい。溝渕久美子「ヘルン先生の粉」は日本統治下台湾を舞台とする改変歴史×ゾンビもの。『屍者の帝国』はまあ思い出す。「粉」という一つの嘘と史実の混ぜ合わせが素晴らしく、本アンソロで一番気に入った。長谷川京「まなざし地獄のフォトグラム」は仏教の地獄が空に顕現するようになった現代社会が舞台。説明を拒む事象に対してSNSのコンテンツモデレーションや機械学習の記述が細やかで良かった。飛浩隆「開廟」は「移住種」と呼ばれる人間と異なる種族が地球で暮らすようになった世界で、排外主義の文筆家の日常に異変が生じる。今風の社会的テーマと今風のガジェット(LLM)に少しSF的に「ずらし」を加えて問われる、言葉が持つ力の恐ろしさが改めて生々しい。料理が美味しそう。

