本屋lighthouse "不穏な熱帯" 2025年10月7日

不穏な熱帯
不穏な熱帯
里見龍樹
高校の友人が始めたビアバー&本屋で栗原康のトークイベントが開催されるので、当然のように赴く。我々はみな「よりよい生活」を目指しているが、その「よりよい」の内実を変えることができれば、つまりちゃんと働いてたくさん稼ぐみたいなものからずらすことができればいいのではないか。 アナキズムはやはり、他者への信頼で成り立っている。他者すなわち世界を信用すること、他者になにかを与えればなにかがいつか返ってくると信じられること。SOSを発すればどこかのだれかが応答してくれると信じられること。その前提を必要とするのがアナキズムであり、現代社会においてアナキズムがおおむね「現実味のないもの」として見向きもされない理由は、ようするに他者=世界への信頼を我々が失っているからにほかならない。 信頼というのは、実際のところ常に根拠などないものなのだろう。与えたらその分だけ返ってくる保証などない、声を発すれば返事がある保証などない、しかしそれを根拠のないまま信じるということ。そうしてはじめて「返ってきた」という実績が生まれる。 しかし根拠のない証拠は「ぜったいないとは言い切れない」と強弁することも可能にする。根拠がないのだから、否定することもできやしないのだ。できる根拠がないのなら、できない根拠もない。根拠のなさこそが根拠になる。そんなトンチキなことを書ききった者を私はひとり知っている。 そんなことが考えられながら買われた。
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