谷/坂 "OSO18を追え “怪物ヒグ..." 2025年10月9日

OSO18を追え “怪物ヒグマ”との闘い560日
オーディブルにて視聴。  面白かった!  北海道東部の牧場で、4年間に渡り66頭の牛を襲撃した大型熊oso18を、南知床ヒグマ情報センター理事長、藤本靖の視点から追いかけた記録。  「肉しか食べない」「牛を殺さずに傷つけるだけの時もある」などのおどろおどろしい情報が報じられたoso18。しかしそのイメージは誇大な部分も多く、例えばその名の由来となった足跡18cmという記録も、実際にはoso18の前足サイズは14cmであった。(熊の足跡は時間による劣化が起こる場合が多い)  また藤本は「肉しか食べない」という事実に対しても現実的な原因を発見する。それはマナーの悪いハンターが山中に遺棄したエゾシカの死体捨て場であった。つまり、oso18は子グマの時から母グマにエゾシカの死体捨て場を教えられ、エゾシカを食べるという事を覚えたのである。またoso18は完全な肉食ではなく、デントコーンの畑でコーンを食べていることからも「よりイージーで栄養価の高い食」に流れていったに過ぎないという事が本書では示される。  ただ本書を読んでいて思ったが、これを「全部人間が悪い」と解釈するのは不誠実な読み方だなぁと感じた。  あれだけ厄介だったoso18が狩猟されたその理由。話の途中でヒグマ対策班一行から出禁をくらうも最終的には大きく貢献したNHK取材班。  以前YouTubeで見かけたが、「鹿が取れすぎる」事に対してハンターが困っている動画があった。鹿を食肉加工するには狩猟から一定の時間内に持っていく必要があるのだが、鹿が多過ぎて運びきれず、土をかけて埋めるしかないのだ。しかしを狩猟しなければ個体数は瞬く間に増え、山の枯死や畑の食害に繋がってしまう。そしてここまで鹿について語ってきたが、熊と人の人身事故は別に鹿だけが理由ではなく、気候の変化だったり、単純な生息域の重なりだったり、結局多岐にわたるとも聞く。  本書では誇張や一面的な見方は少なく、フラットな視点で語られる。想像力は大事だが、過度なファンタジー化はせず現実に誠実に当たっていくことの難しさというものを感じられた。  ただ、反対に登場人物は本当にキャラが立っていて面白い! 熊に関する知識も深まり、現実に対する視点の難しさも考えさせられ、物語としての外連味もあって、非常に面白い本でした。
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