
あるく
@kinokonomorimori
2025年10月9日

くるまの娘
宇佐見りん
読み終わった
感想
かんこはこの車に乗っていたかった。この車に乗って、どこまでも駆け抜けていきたかった。
(本文より引用)
ある一家が親戚の葬式に出席するため、車中泊をしながら帰省する話。
ただそれだけなのに、家族のエピソードが濃縮してあって、読んでいて何度も胸が締め付けられた。
主人公かんこの家は、世間一般から見たら機能不全家族である。父親はDV加害者だし、かんこはそれで鬱病を発症した被害者だ。脳卒中で倒れた母親は過去の家族に縋り、兄は家を捨て、弟も家から距離を置きつつある。
それでもかんこは家族を見捨てられない。自分を保護してくれる筈の両親を自分が護るべき子どもと錯覚し、切り捨てることができない。
父親の受けた暴力が彼の拳によってかんこに染み渡り、共鳴する。かんこはもがき苦しみながら、時折自分も家族を傷つけながら、家にしがみつく。
とっくにボロボロで、いまにも崩壊してしまいそうな車は、不可逆な時間の流れを突き進んでいく。その後ろに、耐えられなかった家族の死体が積み重なってゆく。
かんこを病気だから、と「カウンセリング」するのは容易いだろう。しかし、彼女は最早そんな社会を求めていないのだ。
泥のなかで息をしているような読後感だった。

