
あるく
@kinokonomorimori
よろしくお願いします
- 2025年10月9日人魚の石田辺青蛙読み終わった感想祖父が住職を勤めていたある山寺を亡き祖父から継いだ主人公が、人魚の男「うお太郎」と出会うことから始まる怪奇譚 山奥を舞台にしたゆるファンタジー小説かな?と思わせてサラッと猟奇的な描写もあり、ラストはホラー展開 とは言えうお太郎と主人公の味のあるやり取りや美味しそうな田舎飯の描写(味噌握り食べたい)などは「ほんわか」していて……なんというか、掴みどころのない作品だった 山寺の周辺には様々な力を秘めた石が転がっていて、主人公はそれを見つけることができる。物語序盤に祖父が主人公の兄の記憶を抜き取り封じた「記憶石」というものが登場し、それには殺人事件の目撃情報が入っていた 祖父は何故記憶を抜き取ったのか? 主人公には何故そんな力があるのか? じとっとしていない淡々とした恐怖描写が逆に怖かった この作家の小説ははじめて読んだけど、クセになる空気感 もっと読んでみたいと思った
- 2025年10月9日ののはな通信三浦しをん読み終わった感想ふたりの女学生による、数十年に渡る往復書簡を綴った小説。約450ページ程に及ぶやり取りは手紙、授業中のメモ、メールへと媒体を変え、続いていく。 ライフステージや時代の荒波にのまれながら、何度も途切れそうになる交流は、確かな絆として紡がれる。 ふたりは最初から最後まで離れたままなのだけど、それは結ばれなかったことを意味しない。本編に収録されている膨大な手紙のやり取りが、その証拠だ ずっとそばにいたって、こんなに太い絆が育めただろうか? 胸に残る百合小説だった
- 2025年10月9日小箱小川洋子読み終わった感想ある街で、廃園となった幼稚園を管理する主人公。講堂には郷土歴史資料館から持ち出したガラスケースが並び、なかには命を落とした子供達の未来が展示されている。 幼稚園、郷土資料館、演奏会、すべてが弔いとして機能している街。産声はもうあがらないのか、産婦人科医院は爆破解体されてしまっている。 弔いの番人である主人公が、それにふさわしく身体を小さく折りたたまれていく描写と、口で咥えたペンで架空の手紙を書くシーンが好き。 誰も悲しい、寂しいとは言わない。ただ時が止まった街があるだけだ。反面、ガラスの小箱で暮らす子どもはすくすくと成長していく。人形のお友達ができ、ミニチュアの教材で学び、結婚する。 亡くなってしまった子ども達の親がメインの話だが、焦点が過去ではなく、子どもたちの未来なのが良いと思った。それは決して空白でなく、今日も小箱のなかで綴られてゆくのだ。
- 2025年10月9日くるまの娘宇佐見りん読み終わった感想かんこはこの車に乗っていたかった。この車に乗って、どこまでも駆け抜けていきたかった。 (本文より引用) ある一家が親戚の葬式に出席するため、車中泊をしながら帰省する話。 ただそれだけなのに、家族のエピソードが濃縮してあって、読んでいて何度も胸が締め付けられた。 主人公かんこの家は、世間一般から見たら機能不全家族である。父親はDV加害者だし、かんこはそれで鬱病を発症した被害者だ。脳卒中で倒れた母親は過去の家族に縋り、兄は家を捨て、弟も家から距離を置きつつある。 それでもかんこは家族を見捨てられない。自分を保護してくれる筈の両親を自分が護るべき子どもと錯覚し、切り捨てることができない。 父親の受けた暴力が彼の拳によってかんこに染み渡り、共鳴する。かんこはもがき苦しみながら、時折自分も家族を傷つけながら、家にしがみつく。 とっくにボロボロで、いまにも崩壊してしまいそうな車は、不可逆な時間の流れを突き進んでいく。その後ろに、耐えられなかった家族の死体が積み重なってゆく。 かんこを病気だから、と「カウンセリング」するのは容易いだろう。しかし、彼女は最早そんな社会を求めていないのだ。 泥のなかで息をしているような読後感だった。
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