
あるく
@kinokonomorimori
2025年10月9日

小箱
小川洋子
読み終わった
感想
ある街で、廃園となった幼稚園を管理する主人公。講堂には郷土歴史資料館から持ち出したガラスケースが並び、なかには命を落とした子供達の未来が展示されている。
幼稚園、郷土資料館、演奏会、すべてが弔いとして機能している街。産声はもうあがらないのか、産婦人科医院は爆破解体されてしまっている。
弔いの番人である主人公が、それにふさわしく身体を小さく折りたたまれていく描写と、口で咥えたペンで架空の手紙を書くシーンが好き。
誰も悲しい、寂しいとは言わない。ただ時が止まった街があるだけだ。反面、ガラスの小箱で暮らす子どもはすくすくと成長していく。人形のお友達ができ、ミニチュアの教材で学び、結婚する。
亡くなってしまった子ども達の親がメインの話だが、焦点が過去ではなく、子どもたちの未来なのが良いと思った。それは決して空白でなく、今日も小箱のなかで綴られてゆくのだ。

