
いるかれもん
@reads-dolphin
2025年10月13日
天使も踏むを畏れるところ 上
松家仁之
読み終わった
5月に読んだ松家仁之『火山のふもとで』に繋がる物語。上下巻、合計約1100ページにもなる大長編の上巻を読み終えた。
戦後、皇居の新宮殿を造営するプロジェクトを描く物語と紹介されることが多いが、それだけでは本作を紹介したことにはならない気がしている。いや、それが、ストーリーの軸ではあるものの、本作の魅力は幹から伸びる枝葉の葉先のような細かな部分に見出せるような気がする。
主要な登場人物については、生い立ちから印象的なエピソードまで、十分な分量で鮮明に書いている。村井に関しては、幼少期の生い立ちから、建築を志し、アジア各地の建築を見てまわり、京都の茶室を見学し、ニューヨークで仕事をして、、、、などビックリするくらい背景事情が詳細に描かれている。同様に、建築にしろ、人物にしろ、生活にしろ、とにかく細かな部分まで非常に丁寧に書かれている。建築に関しては、時々何を説明されているのか追いきれなくなってしまう事もあるくらい詳細に書かれている。しかし、別にそれが気にならないくらい文章は非常に読みやすくい。引き込まれてしまう。『火山のふもと』でも感じたけれど、この著者の文章の美しさは、華々しいという意味ではなくて、水のように清らかで透明感のある美しさ。描かれる視点によって見出される美しさだと思う。それだけ細かく、じっくり書かれているので、帯文には主人公の村井がプロジェクトのチーフアーキテクトであることが書かれているが、この部分に物語が到達するのは上巻550ページのうち、360ページ付近である。どこかのネットの書評で読んだけれど、作者が書きたいことを自由に書き尽くしている。
秋の夜長に読むのにぴったりな一冊。



