blue-red "ハンチバック" 2025年10月19日

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2025年10月19日
ハンチバック
ハンチバック
市川沙央
読後に反芻していると、東畑開人による心理臨床が「心を可能にする仕事」と「心を自由にする仕事」へ分類される話を思い出した(「臨床のフリコラージュ」など)。大雑把に言えば、前者は環境調整を行い、安全や余裕を確保する。後者は当人の中で反復されること、深層的な心の問題を扱う。 小説には、社会の中で括弧付きの「普通」に収まらない人が「心を可能」にしようと苦闘するさまを中心に描くタイプがあり、同じく芥川賞受賞した「コンビニ人間」などはこちらか。 「ハンチバック」では、「心を可能にする」こと(身体障害者の環境の問題)についても語られるが、それ自体は主人公の思弁や個有名の引用として触れられるに留められる(しかし、その語りは強烈なパンチ力を放つが)。物語そのものは、むしろ、環境を寄与のものした上で「心を自由にする」スリリングな試みを中心に進んで行く。語りの視点を使い分けながらそれぞれをハイブリッドに収めることで、本作は幅広い読み手を引きつける作品強度を持っている。
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