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@blue-red
お金と本棚が無いときは、所持している本を読み直してやり過ごしてます(´・ω・`)
- 2025年5月19日東京都同情塔九段理江読み終わった芥川賞受賞作に言うのも失礼な話だけど、グルーヴ(本書の言葉でいえば「フロー」)の効いた読み易い上手い文章で、グイグイと読まされてしまった。バベルの塔や言葉の壁がモチーフなのに、小説そのものはとても読みやすいというアンビバレンス。著者の他の作品も読んでみたい 場面や状況の展開そのものはミニマムで、ほとんど登場人物の思考や会話で占められる。何やら社会性や政治性を誘起する設定の小説だが、良くも悪くもテーマの重さは感じさせない。宣伝されてない本書のもう一つのテーマは建築・建築家の持つ欲望についてだと思うが、個人的はそちらの方にアクチュアリティを感じ、今後も気になりそうな概念だ。 些細な点だが指摘しておくと、登場人物に死去をもたらすために精神的な異常者を物語ご都合的にその場限りで用いるのは好きじゃないな、とサラ・マキナのように頭の中の検閲が
- 2025年5月19日読み終わったスマホによる「快楽的ダルさ」と「やわらかな昏睡」状態と、絶えず成長していないと置いて行かれるような切迫感から「ハイテンションな自己啓発」状態を行き来する現代人。 そこへの処方箋として書かれた本だが、自分的グッとポイントは、各人の中に多様性や複数性、本書の言葉でいえば「他者」や「モヤモヤ」が存在することが重要という点。いわゆるDEI的・SDGs的文言の世界では、多様な人たちの存在を認められるべきという普通の意味での多様性は想定されているが、こういう一人ひとりの中の多様性みたいなものはあんまり想定していない気がするね。(もちろん普通意味での多様性が守られることもとても大事) 読んでいてもう少し具体的な方法論やアプローチを書いて欲しいなーと思っていたら、増補版追加Q&Aで補われてた。
- 2025年5月17日皇帝の新しい心ロジャー・ペンローズ,Roger Penrose,林一再読した人工知能が人間のような意識を持つかを考察した書物だが、どちらかというとその背景となるチューリング、ゲーデル、相対論、量子力学などの重厚な記述・考察が大部を占めており、自分はノックアウト、読み通し切るのは難しい…… 概要文では「著者ペンローズは、現在の物理学にはきわめて重要な基本的洞察ー量子重力論ーが欠けており、それが得られない限りは、心を理解することは決してできない、と主張する」とあるが、著者はそこまで論旨明快に断定的結論を示しているわけでもない。少なくとも本書では。 現在ではペンローズの量子脳理論として知られるものの端緒となった書籍だが、専門書に近い本格的な書籍であり読む人を選ぶ。 ちなみに最高に妖しいカバー図は、複素三次多項式のニュートン法の吸引領域を色分けしたもの。書籍中で説明ないけど
- 2025年5月3日君自身の哲学へ小林康夫再読した確か、この本でブリコラージュを知ったことを思い出した。立て板に水とは違う、思索の過程を晒すように、言葉で語り続けるようとする文体が良い 傷と皮膚。傷の少ない社会になったのはいいが、浸透圧高めに情報やイメージが入り込んで来る情報環境社会。全くそのとおり、やれやれどうしたもんか。条件付けと承認。著者も答えを保留するように果たして条件付けのない承認などあり得るのか?代わりに条件の形を多種多様に増やしていくのはどうか? 問いの中に居続けることは難儀で面倒で、その格好つけたポーズの割には大したことも捻り出せず、凡庸でダサい自分に嫌気が差すことばかりだが、それもまた一興、楽しんでいきたい。 「ある者は戦い、ある者は生み出し、ある者は学び、ある者は祈る。そうしながら、自分だけの仕方で、自分だけの問いを問わなければならない。それがこの地上に落ちてきた者のただひとつの使命なのだと思います。」
- 2025年4月27日ひとりっ子グレッグ・イーガン,山岸真再読した脳へのインプラントや機械化といったネタを使い、心や思考に係る事象を科学的な言葉を使って身も蓋もなく描写する、アイデンティティSFと呼ばれる作品群は、いまでもフレッシュに読める。「行動原理」「真心」「決断者」「ふたりの距離」 一方で、量子力学ネタにどうにも冷めてしまう自分には、表題作や「オラクル」は最初に読んだときもそうだったけどあんま楽しめない。なんとも浮いている「オラクル」のTV討論会は、ロジャー・ペンローズの主張に反論したい作者の個人的趣味でしょう
- 2025年4月13日谷川俊太郎詩集谷川俊太郎読んだ言葉あそび寄りのやつも良いのだが、中でも、情景と思考と世界と真理をするどく描写してくるやつらには((( ゚ д ゚ )))ハッっとさせられる。最近亡くなられたのでミーハーなノリで購入したんですが、少々舐めてたようだ。おそるべし…
- 2025年4月6日コンサルは会社の害毒である中村和己再読したコンサルがきらいなので、エコーチェンバーとフィルターバブルに包まれて気持ち良くなるために読んだ。しかし残念ながらコンサルDIS一辺倒ではなく、同じぐらいの文量が費やしてなぜ日本ではコンサルが意味ないのかという観点から日本の会社のダメなところを指摘される。内容は、ウーム、アメリカと比較したありがちな日本企業批判でツマラんかな。本書でも書かれているように経営コンサルは新自由主義・商業主義の徹底を内面化しているので、そもそもそういうアメリカ的な思想を企業側や日本社会も内面化しないと噛み合わないということだろう。もっとコンサルDISが読みたかったぜ。
- 2025年4月6日庭の話宇野常寛再読した近ごろ、社会についての問題提起や議論の記事を読むと、やたらと「コミュニティ」の建て直しや作り直しの必要性を述べて締めるみたいなものが本当に多いと感じる。「うーん、コミュニティねぇ…」と率直にそれ良いものだと思えなかったモヤモヤを、著者は明瞭に言語化してみせる。そして、オルタナティブとなる観念と指針を提示する。 実地訪問、文芸批評、インタビュー、先行研究紹介、古典読解、個人的エピソードと総力戦のような本で、思索と連想を誘う興味深い人文知がつまっている。展開される議論は常に問題意識に結びついており、文量は多い本だけど散漫な印象を与えなかった。 社会を論じた本だが、別に起業家や活動家ではない普通の人たちにとっても個人的な行動指針を取り出せる。「庭」を自分なりに言い換えると、昔からよく言われる人間関係に依存しない趣味を持っておくと精神的に安定できるというやつだ。個人的にもそういう趣味(庭的なるもの)を大事にしており、本書によりそれはまちがっていなかったんだなと勇気付けられた。
- 2025年3月29日アンドロイドは電気羊の夢を見るか?フィリップ・キンドレッド・ディック,フィリップ・K・ディック,土井宏明,浅倉久志再読した映画を観て、後に小説を読んだ。大筋は同じだが、映画とはプロットに大きく異なる点があり、映画には無いキャラクターや小道具やエピソードもあり、別物として味わうのが正解か(全ての原作作品と翻案作品に言えることだろうけど)。 人間とアンドロイドの違いという哲学的問いや神秘性も興味深いが、小説を通じて印象に残るのは、心身疲労しながら任務を進める主人公を通して見る「白昼夢」のような一日それ自体だった。主人公は最後ささやかハッピーエンドを迎えたが、イジドア君にも幸福あらんことを祈る。
- 2025年3月22日レトリック感覚佐藤信夫再読した一見固そうな書名、表紙、レーベル名だが、語り口はとても優しく、学問的知見を見通しよく説明してくれる名著。それでいて著者の信念のようなレトリック観もしっかり語られ、それらもとても説得的だ。言葉の表現に何かしらでも向き合った人ならば、つまりほとんど誰でも、得るものがあり得ると思う なによりも著者によって小説や詩から解説用に選ばれた用例文が魅力的で、作家ってスゲー、言葉ってオモロー、とうなってしまった。「レトリックのことばのあやは一般に、名状しがたいものを名状せざるをえない、という欲求にこたえるための、やむをえない手法」と著者は言うが、自分はそこまで「欲求」を持って生きてきただろうかと自問する
- 2025年3月19日構造と力浅田彰読み終わった内容盛りだくさんで全く消化しきれんが、読後感を小並感で言葉にすると「なにごとも構造をとらえることがとても大事なんだと思いました」となる。末尾の図表は眺めているだけで連想妄想飛躍が刺激されてよい。アツい箇所を引いておこう。 「同化と異化のこの鋭い緊張こそ、真に知と呼ぶに値するすぐれてクリティカルな体験に境位であることは、いまさら言うまでもない。簡単に言ってしまえば、シラケつつノリ、ノリつつシラケること、これである」
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