russnaction "文藝 2025年 11月号" 2025年10月14日

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2025年10月14日
文藝 2025年 11月号
坂本湾『BOXBOXBOXBOX』読了 いわゆる三人称神視点で、霧の立ち込める宅配所での、四人の人物の労働、そこから生じる焦燥や閉塞感を描く。 映画でショットが切り替わるように、語り手が次々と入れ替わっていく。最近は中々目にすることない三人称神視点の語り口で語られるのは、それぞれに背景を持つ四人の単純労働と、その当然の帰結として生じる錯乱(その当然の帰結を当然の帰結のように書かないのが文学と思うのだが、ちょっと当然の帰結として書き過ぎている気がした)、その錯乱(登場人物それぞれの次元の錯乱と、語りそのものの錯乱)をそれこそ霧のように曖昧に拡散させて、強調されてきた箱というモチーフの閉塞性を逆説的に拡大し、最後には我々もその閉塞の中にある、という展開。 共感や感情移入を呼び起こす出来事というより、それらを許さない固い文体や言葉遣いと、過剰なまでに練られたプロットが小説世界を成り立たせている。これを言ったら元も子もないが、登場人物がその雰囲気や設定に従事させられている印象。しかし、人物が労働に従事するという展開も照らし合わせた場合、それさえも狙いなのかもしれない。 特に、社員の神代の錯乱を、「労働」や「荷物」や「胃腸薬」といった言葉の不自然な使い方を通して表現する場面は圧巻。身体、荷物、職場、社会...その全てが箱という記号のイメージに収斂されていく様を鮮烈に描いている。 語りそのものを疑い、今書くべきことを箱というモチーフに預けるという批評性、何よりこの完成度を仕上げる技術と胆力は圧巻。
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