
いるかれもん
@reads-dolphin
2025年10月15日
天使も踏むを畏れるところ 下
松家仁之
読んでる
220ページ、建設省から宮内庁に出航した建設技官、杉浦のモノローグ
「予想外の連続であった自分の人生は、望外に恵まれたものになりつつあるとさえ感じている。若いころには一度も抱いたことのない感慨だった。皇居新宮殿の仕事をアナクロニズムだと嘲笑う者がいたとしても、それを恥じる気持ちはもはや自分にはない。アナクロニズムはたんなることばだ。天皇を信奉するもしないも、ことばの問題ではないか。桂離宮の成立事情をたとえ社会科学的に分析したとしても、いまも厳然とある建築の価値を無にすることはできない。建築は物として残り、記憶や意味と切り離されてもなお、あらたな評価を得る可能性がある。ことばはうつろいやすい。敗戦と当時にあらゆることばがひっくり返り、価値が転倒するのを体験するなかで、自分が迷わず取り組んだのは復興のための建築だった。間もなくあれから二十年になるところまで来て、物にくらべてことばははかないと感じる。それは動かしがたい確信に変わりつつあった。」
戦後の価値観の変容と、建築の普遍的な価値を対比させた文章。思わずため息が出てしまった。



