
田口為
@naseru_taguchi
2025年10月18日
坂の中のまち
中島京子
読み終わった
借りてきた
図書館に行く夫に「何か読みたいから借りてきて欲しい」と依頼したところ、借りてきた一冊。
不思議な読後感だった。物語は、大学進学のため主人公が上京し、下宿先の女主人に挨拶するところから始まる。この女主人が非常に個性的な人物であり、私は「なるほど、主人公の大学生活に関わってくる人物なのだな」と思った。大学生活を通して変化していく主人公の話にのかと予想していた。
しかし、私の予想に反して主人公の大学生活の描写は全編を通してみるとそこまで深くはなかったと思う。本書は六話構成だが、例えば一話で出てきた大学で出会う友人は、二話以降では登場回数が減ってしまう。同様に、固有名で出てきた人物がその後出番なし、ということもちょくちょくあった。
この本は、六話分の読み切り短編集のような印象だった。もちろん主人公に変化がないわけではない。六話を通して恋をしたり、バイトをしたり、帰省をしたり、その度に色々な人に出会い、色々なことを考える。
その中で、下宿先の女主人が関係してくるのである。主人公自身も、彼女がいないところで彼女の愛読書達を思い出すなど影響を受けていく。一話一話は大学生活の中で起こる出来事を切り取り、そこに女主人も絡んでいく。
しかし、女主人の存在によって、六話を通して主人公に劇的な変化が起こるかというと、そうではないように思った。
主人公には恋人ができるのだが、その進展やすれ違いという過程も本書のメインでは内容に思った。
本書は、タイトルの通り東京の坂がメインなのだ。坂を取り巻く物語は日本に沢山ある。主人公を通して「坂」を描く作品なのだ、と思った。
読了後、淡々とした本だった、という感想だった。エピローグも登場人物達はどうなった、という一文が並ぶようなあっさりしたものだと思う。
坂はただそこにある。たまたまそこの坂に文豪が住んだり、たまたまそこの坂を舞台に物語が生まれた。そうしたことを表現しているような気がする本であった。



