
DN/HP
@DN_HP
2025年10月19日
すべての見えない光
アンソニー・ドーア,
藤井光
かつて読んだ
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アンソニー・ドーアも7年ぶりの長編小説の翻訳が年末に出るそうで。翻訳はまた藤井光さんで、間違いなく楽しみ。
詩情豊かな描写、それに訳文の美しさに心が躍る。プロットの巧みさに唸る。ストーリーの行き着く先に固唾を呑む。ページを捲り続ける。読み終わった後にはそれらを合わせた以上の感動が残る。
人はときに残虐で歴史は残酷だけれど、そこから掬い上げられた人々の物語は、やさしさをもって語られる、そこにもある、あったはずのやさしさが語られる。そこには光が差している。そして、その光のなかに希望がある、そう思いたかった。とても素晴らしい小説を読んだ。深くため息をつく。
心身が草臥れているときは、あまり本がうまく読めないのだけれど、それでも本当に素晴らしい小説を読みはじめてみれば、「読書は我を忘れさせてくれる」。時代で区切られたなかで短い断章でそれぞれの人生が交互に語られる。忙しないなかでもすぐに没入でき、一旦離れてもまたすぐに戻ってこられる。繊細に濃密に人生を物語るその構成にも助けられた。また小説に救われていた。
「それでは、ひとつたりとも光のきらめきを見ることなく生きている脳が、どうやって光に満ちた世界を私たちに見せてくれるのかな?」
この小説のように人々、世界が描かれ、それを読むことによってだ。そんなことも思う。
「時間とは、うんざりする余剰でしかなく、樽から水がゆっくり抜けていくのを見つめるようなものだ。だが実際には、時間とは自分の両手ですくって運んでいく輝く水たまりだ。そう彼は思う。カを振りしぼって守るべきものだ。そのために闘うべきものだ。一滴たりとも落とさないように、精一杯努力すべきだ」
角を折ったページを開いて幾つかのセンテンスを何度か読み返す。今度は深く頷く。精一杯努力すべきだ。









