たるたる "エピクロスの処方箋" 2025年10月18日

たるたる
@miyabi
2025年10月18日
エピクロスの処方箋
「ほかの職業なら働き方を選ぶのは個人の自由かもしれん。しかし医師は違うんや。自由やら権利やら欲しがる人間は、そもそも医者になんぞなったらあかん」 「医者っちゅうのは,特別な仕事やと思うとるんや。命を預かる重大な役割やとか、たゆまざる努力が必要やとか、そういう当たり前の話やない。医者になろうとする人間には、自分の人生を、少なからず犠牲にする覚悟が必要やという話や」 作中での絶対権力者の教授のセリフです。別の人物に、やんわりと今だとそんなセリフはなんちゃらハラスメントになりますよと言われますが、僕は割とこちらの感覚に共感を覚えます。 お医者さんとか学校の先生とかにはそうした資質を求めてしまいます。それこそ時代遅れなのかもしれませんし、そんな重圧を与えるから成り手が減るんだと怒られそうですが、だからこそ聖職だとして尊敬の念を持って接したいとも思います。 もちろん、可能であればワークライフバランスを保っていただきし、過酷な労働や精神負担の分十分に高い給与や余録は得ていただきたいんですが、自分の教育業界もそうですが、自分や自分の家族より患者や子供や学生を優先しないといけない時はあるのが普通だし、そういう人がいないと世の中が回らないんじゃないかなぁと思ったりもします。 さて。それはさておき。 そんなような医師はどうあるべきかという話に、それとは全くの別角度でアプローチしてるのが本作の主人公のマチ先生こと雄町医師です。 天才的な腕を持つ消化器内科医でしたが、病死した妹のまだ小さな息子を引き取るために大学病院を辞め、今は京都の下町の総合病院に勤める内科医です。 彼が老齢の患者たちに寄り添い、看取り医に近いこともしながら過ごす日常に、前出の教授がいる大学病院の医師たちが絡んできます。 マチ先生の迷いながら自分の進む道やあるべき医療を追い求める姿や、患者に寄り添う姿。旧友にして大学病院の敏腕准教授の花垣先生(この先生が実に魅力的で男振りが良いのです)の自信に満ちた姿。引き取られた甥っ子の龍太郎くんの成長。春風のような爽やかさを運ぶ研修医の南先生のまっすぐさ。 そういうのがとても心地よい医療ものの小説です。個人的には今までで一番好きな医療ものです。 ちなみに本作は映画化予定の『スピノザの診察室』の続編です。今作から読んでも問題はないですが、できればそちらからの方がベターです。 追記 これはわかる人だけわかってくれるといいんですが、主人公のマチ先生は『銀河英雄伝説』のヤン・ウェンリーみたいな感じだなとふと思いました。 そしてそう感じると、同居している甥っ子でマチ先生の世話を焼く彼がユリアンのように見えてくるから不思議です。いや。あくまで余談です。
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