
icue
@icue
2025年10月22日
読み終わった
本書読了後にたまたま読んでいた2025年11月号の『世界』に掲載されているシンポジウムの講演録にて、高橋哲哉氏と三牧聖子氏もICCの持つ役割の重要性に触れられている。いまや長い戦後が終わろうとし、力がモノを言う国際情勢になろうとしている。そんななかで、戦後の遺産とも言うべき、中核犯罪を国際的な規模で裁く常設の裁判所の意義は大きい。
本書で赤根氏は所長選挙に立候補することを同僚たちから勧められたことの理由に、自身の仕事ぶりが評価されたこと以外に日本に対する信頼があったと述べている。「法の支配」の価値を訴え、貫徹している大国である日本がバックにいれば、いざというときに頼りになるとの期待があったのではないか、と。日本にそうした視線が向けられているのはやや意外(?)だったのだが、そのような信頼があることは日本の将来において重要な意味を持つのかもしれない。少なくとも今後数十年は、日本は経済的にも軍事的にも大国たり得ず、国際情勢に翻弄されることしかできないだろう。そうした状況下で日本が主体的に国際情勢に関われる部分があるとしたら、こうした普遍的な理念や価値観を訴え守っていく立場としてくらいではないか。
現在、日本はICCへの最大の分担金拠出国となっているそうだ。こうした事実をこそ日本人は誇りに思うべきだと思うが、昨今の内向きな国内情勢を考えると、いつ日本がこの役割を放り投げることになってしまうかもしれず心許ない。そうなればICCの存続も危ぶまれる。赤根氏はICCの設立は冷戦終結後の国際社会の雪解けムードの時期だったからこそ実現できたのであり、だからこそICCが一旦無くなれば、今の国際情勢では再建することは絶望的だと言う。そうなれば、やはり日本が大国として振る舞える余地もないだろう。日本の国益という観点からも日本が「法の支配」に基づく国際秩序を擁護する立場を貫くことを願いたい。
なお、ICCの裁判官や検察官といった人々の人数は決まっており、公判が増えると一人当たりの負担も増す。赤根氏は所長になってから土日も仕事をするほど忙しく、ワークライフバランスなど考える余裕もなさそうだ。サイバー攻撃やスパイ侵入未遂、アメリカの制裁にロシアからの指名手配と、心休まる暇もないだろうに、職務を全うされる様には敬服するしかない。



