ホタテ "BUTTER" 2025年11月1日

BUTTER
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柚木麻子
途中までは淡々と読み進めていたのだけど、連続殺人の容疑で控訴審を待つ梶井真奈子に面会が叶ってからの記者町田里佳の変化に目が離せなくなって、夢中でページをめくり続けた。 無意識に内在化してるジェンダーロール、自分の中にも他者の中にもそれを感じてしまうともうその違和感からは目を背けられなくなる。 意識しないようにすればするほど、ますます実感する。 カジマナの現実ではなく妄想を生きる姿は、今のSNS時代はよく見かけるようになった病理だと思う。 カジマナと出会ったことにより、里香と親友の玲子が自分自身の問題を解決しながら、逞しく生きていく姿に励まされつつも、主観の世界から抜け出せないカジマナの悲しさに、自分に重ねる人は多いんだろうなと思う。 男性たちにとって、生きた女は必要なく、生を感じさせる女は必要とされてないというのは今を生きる女性全てに、少なからず心当たりのある共感なんじゃないだろうか。 作品に出てくる食べ物の描写が素晴らしくてツバを飲み込みながら最後まで読み切った。 美味しいものだけ食べて、好きなことをして自分を喜ばせること、それがカジマナの場合と里佳の場合で違う結果を生んでいくことも、示唆が深く、寛容さを失うことの怖さも感じた。 怖い殺人犯というよりは、現代社会でよくみかける不寛容で、現実に向き合えない弱さをもつ、どこにでもいる女性というように描いたのは、柚木さんが常日頃からもつ人間への観察力の素晴らしさだし、誰もが陥る怖さでもあるなと思った。
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