
gato
@wonderword
2025年10月23日

寝煙草の危険
マリアーナ・エンリケス
読み終わった
後半の収録作こそが本領発揮だったっぽい。「どこにあるの、心臓」や「誕生日でも洗礼式でもなく」の身も蓋もない性の描写、「肉」の聖書パロ、「戻ってくる子供たち」の淡々とした終末のヴィジョン。道具立ては確かに王道なくらいホラーだし、幽霊に悪魔にゾンビがうじゃうじゃとでてくるのだが、読み味はむしろ実録犯罪モノのよう。
たとえば大槻ケンヂの『ステーシー』とか津原泰水の『妖都』とか、読中ぼんやりと頭に浮かんだ類似の作品もあるのだが、あれらが持っているロマンティックな甘ったるさが本書の収録作にはない。だが、この作品たちが語るアルゼンチンの貧困と社会不安のマジック・リアリズムは、私たちにとってもリアルなのだ。読んでいてトー横キッズや東電女性社員殺害事件を思ってしまうほどに。
女子供の〈ヒステリー〉は大昔からホラーのいいネタであったわけだが、エンリケスはあくまで〈ヒステリー〉側のインサイダーでありながら語り口はひんやりとして感じられる。あえて言えば物語そのものより、これを書いている人がいるということ、そっちほうが怖いというタイプのホラー。だから「誕生日でも洗礼式でもなく」が不自然にも父親からの性加害の可能性に触れずに終わったのが(絶対わざとなので)一番ゾッとした。



