寝煙草の危険

25件の記録
- よみむすび@read-holic772025年3月14日読み終わった読了 読み始めと印象が違う! あとがきを読んで納得 グロテスクさのため再読は・・・ と思ったけれど視点を変えてみたら読み方も変わりそう ホラー小説は初めてだけれどよかった
- よみむすび@read-holic772025年3月12日読んでる五感に響く。 肌の下を這うような感覚から始まり、読み進めると同時に内臓まで届くような不気味さを感じる。 それぞれ違う話なのに全体をみると言い表せない怖さが立ち現れるようでゾッとする。
- のーとみ@notomi2025年3月12日かつて読んだマリアーナ・エンリケス「寝煙草の危険」読んだ。なんか久々にものすごくビックリしたというか衝撃を受けたというか、初めてDEVOやストラングラーズ、No New Yorkなんかを聴いた時のような衝撃的な短編集だった。ホラー小説的なガジェットと構造で書かれているけれど、その感触は岡本綺堂の「影を踏まれた女」とか、都筑道夫「十七人目の死神」などのモダンホラー的な怪談に近い。そして、もちろんマルケスやボルヘスなんかのラテン・アメリカ文学的な、現代と古代が二重写しになった世界での幻想譚的なテイストも感じさせるけど、彼女が凄いのは、そういった文学的な遺産とか、80年代以降のモダンホラーの方法論とかを、全部下敷きにしつつ、キレイに解体して、アルゼンチンの現在を世界的な普遍性の一例として書いてることだと思う。何より恐ろしいのは、彼女が描く怪異にはほとんど人の悪意が存在しないこと。強いて言えば世界の悪意と不運vs個人の物語なのだけど、相手がひたすら理不尽で、理不尽過ぎて敵か味方かも曖昧。そういう形で書かれているから、ものすごくリアルに現実と重なる物語なのに、きちんとポップだ。 ひたすら、赤ん坊の死体につきまとわれる「ちっちゃな天使を掘り返す」のリアルな死体描写や、何かが確実におかしい街に充満する死臭の物語「悲しみの大通り」をはじめとする、幾つもの物語で執拗に描かれる「臭い」の描写の容赦のなさ、「湧水池の聖母」をはじめ、「どこにあるの、心臓」などでも繰り返される、女性が自ら掴み取るエロ描写の切実さ、などなど、ディテールの描写の密度の高さと、それらを見事に日本語にして、きっちり気持ち悪さを伝える宮崎真紀さんの翻訳の素晴らしさ。そりゃ、世界中で翻訳出版されるわと思う。 70ページほどの「戻ってくる子どもたち」以外は20ページ前後の短いものばかり全12編。でも全部が高密度で静かだけどハイテンションで、しかも面白くて衝撃的で、でも全部なんだかモヤモヤするという奇跡のような作品集。この怖さがアルゼンチンでのローカル怪談に留まらない、それこそ「残穢」のように世界中に伝染していくように思えるのは、彼女の筆力と発想力の凄まじさだろう。文学におけるニュー・ウェイヴはスパニッシュ・ホラーにあったんだなあ。彼女が「スパニッシュ・ホラー・プリンセス」とか「文学界のロック・スター」と呼ばれていて、本人もロックなファッションして、ロックを題材にした小説も書いてるというのは、偶然ではないと思う。 この「寝煙草の危険」は日本では去年(2023年)翻訳されたけど、本国では2009年に出版された第一短編集で、2017年の第二短編集「わたしたちが火の中で失くしたもの」は先に河出書房新社から翻訳が出てるから読まなきゃ。あと、未訳だけど紀行文の「誰かがあなたの墓を歩く 墓地への旅」とか、アルゼンチンの「ファイアスターター」っぽいらしい最新長編「夜のこちら側」、ロックスターを育てる妖精たちの物語「ディス・イズ・ザ・シー」、更には現在執筆中のアルゼンチンが消滅した世界でクレイジーなロック・バンドが活躍するディストピア小説もあるらしいので、どんどん翻訳されるといいなあ。 スパニッシュ文芸では、この本と同じ宮崎真紀さん翻訳のエルビラ・ナバロ「兎の島」も面白そう。この本もだけど、国書刊行会さん、良い翻訳書をいっぱい出してくれてありがたい。ただ、高いんだよー。だから、これだけ凄い本もネットでは一部でしか話題にならない。こういう本こそペーパーバックで2000円くらいで出して、広告バンバン打てばいいのにと思う。値段のせいで読まれないのはほんと勿体ない。面白いよー、ほんとに。12編全部面白くて、巻末の訳者あとがきまで面白いよー。