
橋本吉央
@yoshichiha
2025年10月25日
体の贈り物
レベッカ・ブラウン,
柴田元幸
読み終わった
素晴らしい本だった。
エイズ患者のホームケアを担うUCS(United Care Services)で働く主人公が、さまざまな患者の家にいきケアを行い相手と話をするエピソードが綴られる連作短編小説。
だんだんと体調が悪化していき身の回りのことができなくなっていくクライアントたちに寄り添い、尊厳を守りながら、自分自身を少し削り取りながら、ケアを続けていく主人公。
いつも訪問ついでにシナモンロールとコーヒーを買っていっていたリックの家。ある日リックから機嫌が良さそうに「今日は買ってこなくて良い」と言われて行ってみると、リックは体調悪化で苦しんでいた。一緒に寝て抱きしめ、車で病院に送る手筈を整えて部屋に戻ると、リック自身が主人公のためにシナモンロールとコーヒーをキッチンに用意していたのだった。そういう一つひとつのエピソードが心を打つ。
人をケアすること、尊厳を守ること、時にはケアをするだけでなく相手から受け取るものもあること(人と人は支え合っているんだ、みたいな感動物語ではなく)……そういうことが、やり取りの中に深く描き込まれている。
もうひとつ、明確に言葉として描かれていない点として、1990年代の物語であり、エイズが同性愛者の病気としての誤ったイメージが強かった時期、ではないかと思う。UCSのケアを受ける前は、多くの場合同性愛コミュニティ(ほとんどが男性同士、ゲイである)の友人にケアされていた。そこにUCSという第三者が支援をすることで、コミュニティに閉じざるを得なかったケアが開かれた、という文脈もあったのではないか、と少し想像した。構造的に負担が減った、というだけでなく、エイズ患者とその周辺の人々が感じる孤立が、少しでも緩和されたのではないかと。
UCSも、患者の家族など当事者に近い人々が働いていたようだった。そういった当事者性の高い活動から支援は広がっていくのだろう。


