
Ryu
@dododokado
2025年10月25日
ヘクタール
大森静佳
読み終わった
はなびらは光の領土とおもいつつ奪いたし目を閉じれば奪う
木々はみな即身仏であることをいっぽんいっぽん光って無言
呼吸するような、ものに吸いつくような阿修羅の臍の深き切れ込み
ふかぶかとコートを羽織るこのひとのたましいは面長であろうよ
前のめりにパスタを啜っているひとの暗黒の耳のなかへ落ちたし
紫陽花の奥へ奥へとさしこんだ手はふれるだれかの晩年の手に
さびしいと手の大きさがちぢむひと光のなかでゆでたまご剝く
雨だよ、と告げてあなたに降りかかるわたしに雨の才能ありぬ
傘の骨、と言うときのわがくちびるに傘の肉赤黒くふくらむ
席ひとつ空けて映画を観る五月ふたりに透明な子のあるごとく
ひらくたび頁が濡れているような『コレラ時代の愛』という本