
句読点
@books_qutoten
2025年10月26日
夜間飛行・人間の大地
サン=テグジュペリ,
野崎歓
読み終わった
1週間くらい前に読み終わったのに感想を書いていなかった。明日の読書会に向けて思い出しながら書いてみる。
まず内容に入る以前に、久しぶりに分厚い骨太な小説を読んだ。先月の読書会で読んだ『君たちはどう生きるか』もまあまあ分厚かったが青少年向けというのもありとても読みやすくスラスラと読めたのだが、今回のは海外文学で、大人向けという感じで、なかなかスラスラ読むというわけにもいかず数日かけてじっくり読んだ。そして分厚い小説を読み終わった時の達成感がまずやはりとても良い。これは他のどの活動をしていてもなかなか味わえるものではない。深い満足感と余韻。もちろん内容が素晴らしかったことから来るのだけど、(でなければ最後まで読めない)この分厚い骨太な小説を読み終えた時の達成感がまず強かった。
内容であるが、さまざまな媒体に発表していた文章を「花束のように」(アンドレ・ジッドの助言)編んだ作品。中南米の聞き慣れない地名などが多く出てくるので最初はちょっと戸惑ったが、Googleアースを見ながら読んで臨場感を高めて読んだ。
飛行機乗りの先輩たちのエピソード。精神的貴族とはこういうことか、という人たち。やはり最初に印象に残るのは雪山で遭難したギヨメが、自分の遺体が少しでも早く発見されて妻に保険金が滞りなく支給されるように、という思いだけを頼りに極限状況の中一歩一歩歩いて、奇跡的に生還した話。100分de名著でも印象的だった。保険=アシュアランス=信頼。人間に対する責任=レスポンシビリティ=応答すること。極限状況の中で人を最後に動かすのは、やはり誰かのために、という思い。いや、やはり誰にでもできることじゃない。もう限界だからあとはもうどうにでもなれ、と思ってそのまま雪の中で眠る人が大半だろうが、そこでも最後の最後まで、自分が生きるためにではなく、妻のために、最後の力を振り絞って歩き続けたところに感動するのだ。他の動物にはできない一番人間らしい行動をしたのだ。
極限状況の中で現れる人間らしさについて、さまざまなエピソードとともに語られていく。
間に美しい夜の飛行の情景だったり、途中で降り立った街での出来事、出会った人たちとの思い出だったりも挟みながら。
やはり圧巻なのは最後、サン=テグジュペリ自身の砂漠での遭難の体験の話。四日間もの間灼熱の太陽のもとで、幻覚を見ながら、喉の渇きに耐えながら、歩き続けているその描写。こちらまで喉が渇いてくるような臨場感、唇の嫌な粘っこい感じとか色々伝わってきた。この分厚い本がそもそもじっくりじっくり、一歩一歩歩くように読まないと進まない、なかなか読み終わらない本。だけど最後にまたとうとう奇跡的に砂漠の民に出会うシーンの感動もすごい。「あなたの顔を忘れるだろう」という一見普通逆じゃないかということも、よくよく読んでいくと、そういうことか、と。人間の顔を見出したんだと。
そしてそれに続く最後の章。これがまた良い。第二次大戦に突入前夜、ポーランドに送り返される労働者の乗る列車に居合わせたサン=テグジュペリが、粘土のようになってしまった人たちの中でモーツァルトのような輝きを放つ子どもに出会う。しかしその子どもも粘土になってしまうだろうという予感。実際その後のポーランドでは人類史に残る大虐殺が待っていた。その未来を知っているからこそこのシーンは重たく響いた。しかし最後の一行にたどり着いた時に、この『人間の大地』というタイトルに見事に繋がる。本当に感動した。読み終わった、という達成感とともに、なんとも言えない余韻。
思いつくままに書き散らした。明日またみんなで読み直すのが楽しみ。



