カササギ "その猫の名前は長い" 2025年10月27日

その猫の名前は長い
その猫の名前は長い
イ・ジュへ,
大阿久佳乃,
牧野美加
水の中を歩く人たち 花を描いておくれ 春のワルツ その時計は夜のあいだに一度ウインクする 読後私は、この作家と一緒に年を取っていきたい、と思った。 韓国文学ってこんな感じ、と語れるほどたくさん読んでいる訳ではないけれど、ハン・ガンがアジア人女性初のノーベル文学賞を受賞してからさらに邦訳される作品が増えてきてる気がして、読むべき選択肢も増え、嬉しい限り。 今作は9つの短編集から成る著者初の邦訳作品。もう若くはない女の話が多い。若くはない女には若い頃があり、もちろん少女の時代もある、そんな当たり前のことが数ページめくっていくだけで分かっていく。気が付いたら強く引き付けられて先へ先へと急いで物語を読んでしまう。カタカナの登場人物名は男なのか女なのかすぐには分からず、人代名詞を探して判断する、そんなんだからもっとゆっくり読むべきなのに。 わたしたちはもっと物語るべきなのだ、と思う。 ここには、開いてみなければ知ることの出来なかったわたしたちの物語がある。 連帯する女性の話とは言い切れない、途切れたり薄れたり、濃すぎたり鬱陶しかったりする、愛憎入り混じるような複雑な女たちの関係性を、見事に描いている。適切な距離でいることは難しいわたしたちではあるが、立場や役割が違っても、時間や空間に隔たれても、あいだにある絆や受け継いだ何かを感じる瞬間は確かにある。作家の目はその瞬間のきらめきを見逃さない。わたしたちの日常には確かに物語るべきことがあり、それに耳を傾けてくれている。その声を聴く。語られなかった自分自身の言葉もその中にあるように感じる。 作家がもっと年老いて、人生の深みが増していくそのときに、この人は一体何を書くのだろうか。私の後ろを歩く人たちに聞かせるべき物語とは何か、彼女はきっとその答えを作品を通して教えてくれるに違いない、そんな気がしてる。
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