
Anna福
@reads--250309
2025年10月30日

山梔 (ちくま文庫 の-18-1)
野溝七生子
読み終わった
読書への渇望や思春期の柔らかい心が、これほどまでに「罪」と見なされた時代があったのか。
兄嫁・京子の冷たい眼差しは、当時の社会規範そのものの監視の目であるように感じる。
女学校を出ても家で夢想しているだけの阿字子に対し、彼女の「結婚もしない、身を立てることもしないで親同胞の厄介になろうというのか」という言葉は、女性に課された「役割」という当時の重圧を映しているが、そこに関しては京子さん正論だ、と感じた。
しかし父や兄が阿字子に「貴様」と言い放つ言葉、そして父による「拷問に等しい折檻、打擲」は、あまりに衝撃的。
家父長制の絶対的な権威の下で、阿字子の魂は有無を言わさず押し潰されようとしている。
「好い子」か「いけない子」かという二極的な評価基準が度々主人公の口から出てくる。
個人の内側の生と外側からの暴力的な抑圧の息詰まるような闘いを描いた記録であり、その生きづらさは現代にも通じるテーマ。
『女が、ちゃんと食べて行けさいすれば、結婚なんぞするものではありませんね』母、『あなたのような人は、もう一世紀、おそく生まれたらばよかったのね。』姉。

