
サリュウ
@sly_notsry
2025年10月30日
街とその不確かな壁(下)
村上春樹
読み終わった
「そんなに我慢強く待つだけの価値が、私にはあるかしら」
「どうだろう」と私は言った。「でも長い時間をかけても待ちたいと思う気持ちには、それなりの価値があるんじゃないかな」
----p.319
個人的に上巻はまるまる忍耐の展開で、下巻も途中までは耐え忍ぶ読書、という感じだったのが、後半一気に面白くなり、最終的にクソおもろいんかいワレ、という感情に至った。
上に引用した箇所がこの物語のひとつの柱で、それとは別にこれは「思いや行為を誰かに、何かに引き継ぐこと」「継承」の物語でもあるなと思った。ある個人への致命的な性愛や恋愛の熱は時を経て別の誰かへと移ろっていき、自分にしかできないと思っていたこの世での仕事や職能は時を経て別の誰かへと継承される。そして、それを当の本人が信じることの大切さ(というより、それを信じること以外なにも大切ではないのだ、と一度でもいいから言い切り、思い切ってしまうことの重要さ)。そういう話。
『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』を再読したくなった。あのころ移ろわず引き継がれなかったものを、『街とその不確かな壁』は踏み越えた。


