K.K. "蜜蜂と遠雷(下)" 2025年10月30日

K.K.
@honnranu
2025年10月30日
蜜蜂と遠雷(下)
文庫二冊1000ページ近くのボリュームがあるものの、長さは感じず。一次予選二次予選あたりは一気呵成に読めたものの、三次予選と本選でいささか食傷気味に。誰が勝ち残る(敗れ去る)のか、予想しながら読むのも楽しいけれど、作品として勝者と敗者の別に比重は少ない。「音が聞こえる描写」の聞こえ高い本作。噂通り書き手も読み手も楽しそうな活写が続くものの、描写のための描写であり、作品としての楽しみは物語の筋よりも目の前の文章を追う事に特化している。それゆえか、三次予選以降は描写に既視感を覚え始め、付き合いで読了。芳ヶ江コンテストを通して、参加者たちが互いに切磋琢磨し合い、それにより成長するという物語の存在感は薄く、作中のクラシック音楽界に訪れる変動を予感させるところは少ない。亜夜のピアノが、おもちゃ箱から墓標、墓標から音楽性を発揮させる楽器へと遷移する流れはとても好き。野生児塵、潜む音楽性の塊亜夜、作曲のマサル、生活者明石と、キャラクター毎に役割と個性の振り幅があるのは好感を覚える。ミエコとナサニエルに代表される、添え物としての恋愛要素はいらないかな。会話や独白のリアクションやユーモア、自虐の色は時代がかって感じた。主要キャラクターが、可愛らしい年下の塵・同年代の王子様マサル・年上の生活者明石(あと審査員枠のナサニエル)とある種理想化された男性陣の他、語り部になるキャラは女性(ミエコ・雅美・奏)で固められている節を感じ、少女漫画の気風を彷彿とした。マサルが優勝なのはいまいち納得いかないかも?
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