勝村巌 "羊をめぐる冒険(上)" 2025年10月31日

勝村巌
@katsumura
2025年10月31日
羊をめぐる冒険(上)
村上春樹の『羊をめぐる冒険』をオーディブルでフル視聴した。フル視聴という言葉はフルシチョフと韻が踏めるな。ソビエト的である。 朗読は染谷将太で非常に巧みな朗読でした。男性の声と女性の声を上手く語りわけていて、感心した。それ以外にも完璧な耳を持つ彼女や、黒いスーツの男、羊博士、指が3本しかないトルフィンホテルの支配人、運転手などをしっかり演じ分けていて、素晴らしかった。 いわゆるネズミ三部作の最終作である。ネズミ三部作ではピンボールのやつが1番好きなのですが、久しぶりに読み直し(聞き直し)してみたらこちらも趣があってよかった。 最近の技巧を感じさせないすっきりした成熟みのある村上春樹も良いが、この頃のある種の迷いみたいなものを抱えたぎこちなさも大変によい。 構成力みたいなものが少し弱いが、戦争とかその後の『ねじまき鳥クロニクル』に流れ着くモチーフがすでに出ているのも良い。 ホテルの中でエレベーターでどこかの間の階に止まるみたいな印象的なシーンがあったと思っていたが、なかった。それは『ダンスダンスダンス』の方だったのかもしれない。 レイモンドチャンドラーの構成や雰囲気を出そうとした、というインタビューがあるようだが、そういったハードボイルドな雰囲気はよく出ている。 あとは秋口から冬の北海道の感じが感じられて大変よかった。お話の中で会社をたたむ話が出ているが、これは同時期に村上春樹が自分の経営していたジャズバー「ピーターキャット」を専業作家になるために畳んだことが影響しているのかな。 久しぶりに読み返して(聞き返して)、色々発見もあった。同じ本を繰り返し読むのは楽しいな。
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