
徒然
@La_Souffrance
1900年1月1日

蝶
皆川博子
読み終わった
戦争前後を舞台にした短編集。仄暗い現実の息遣いが聞こえる中、幻想的な情景が描き出される。思わず感嘆のため息がもれるような、惚れ惚れとする文章だった。
"二階にあがってはならぬと祖母に止められていた。階段が急で危ないからというのが理由であったが、たとえ禁止されずとも、のぼる勇気は、幼いわたしには、なかった。
上り口から見上げると、竪穴のような階段は、見果てぬ高みにいくほど闇の濃さを増し、はては暗黒に溶け入り、なにやら湿っぽく恐ろしげで、それでも怖いものほど覗き見たくもあり、下の段に両手をつき、前足を胸の前にそろえた狛犬みたいな恰好で、首をおそるおそるのばすと、闇がぞわぞわと蠢きながら、黒い霧のように階段を流れ下りてくるので、あわてて縁側で縫い物をしている祖母のそばに這いずって逃げた。"


