
saeko
@saekyh
2025年11月3日
大竹裕子さん、なんて聡明な方なんだ!
1990年代の虐殺と紛争の傷跡がいまだ残るルワンダで、人々がどのように傷つき、苦しみ、そしてどう再生していくのか、というプロセスについて、参与観察による民俗誌調査を通して明らかにしている。
トラウマ体験をカウンセリングによって治療するというのは、西洋医学に基づく個人主義・普遍主義的な思想に基づく手段であり、非西洋社会にも等しく適用できるものではないという批判が目から鱗だった。
西洋圏の研究者たちが未開のものとして軽んじてきたであろう、土着の魔術的な文化が心の傷の治療に効果的なこともあり、伝統的な村医師に診てもらうほうが症状が楽になるケースもあるようだ。
ここで描かれているのは、生き残った人々が共同体を築き、支え合って生きていこうとする姿だ。「家族はなぜ殺されたのか」「自分はなぜ生き残ったのか」という実存的な問いを抱えながら、同じ傷を持つ人々と復興に向けて助け合うことで、自分の経験の意味を社会の歴史というナラティブの中に位置づけることができる。そして西洋や日本のような直線的な時間ではなく、円環的な時間のなかで生きる彼らは、「未来に向かって生きることで過去が癒される」と考える。まさに「生きることで、魂が癒される」ことの文化的背景が、質的研究と理論研究の巧みな組み合わせにより詳らかにされている。
大竹さん、ルワンダの人々を助けたいという強い想いで現地で住み込みでリサーチと支援をしていること、そこで現地の人々とラポールを築いてかなり肉厚な調査をしていること、そして自身の研究を学術的見地を明らかにしながら明晰に論文化しているのが本当に凄すぎる。この研究をもとに国際援助の新しい仕組みづくりを実行したら、ノーベル平和賞が取れそうなくらいの内容だと思った。




