
Ryu
@dododokado
2025年11月3日
新版 歌集 てのひらを燃やす
大森静佳
かつて読んだ
また読んだ
かなしみはいつも怒りを追い越して水田の面に輪を落とす雨
褪せる、には対語はあらず標識の〈百万遍〉の字の青が見ゆ
日は縦に縦に継ぐもの冬雲は輪郭線に光溜めつつ
浴槽を磨いて今日がおとといやきのうのなかへ沈みゆくころ
戒名に光の字ありまばたきはひかりをうすく挟むということ
雨脚が細くなりゆくつたなさにふたりはひとりよりもしずかだ
かなしみと名づければひたのぼりくる枯れ蔓ほどの感情がある
ひかりをあたえるように檸檬へ包丁の刃を差し込みぬ君を帰して
夕立は誰かの死後をざんざんと打ちいき鳥の頬をこすりて
人体にボタンがないということも嬉しく雨に身を差しこみぬ
ひらくもののきれいなまひる 門、手紙、脚などへまた白い手が来る
先に眠ったあなたからはみ出してきた夜をさかなの薄さでねむる
からめれば切符のような冷たさの舌だったんだ だったんだ 冬
平泳ぎするとき胸にひらく火の、それはあなたに届かせぬ火の
歳月の裂け目のような秋めぐり立ったままいのちほどく植物
風の昼運ばれてゆきてのひらを離れてからがほんとうの柩