新版 歌集 てのひらを燃やす
9件の記録
Ryu@dododokado2025年11月3日かつて読んだまた読んだかなしみはいつも怒りを追い越して水田の面に輪を落とす雨 褪せる、には対語はあらず標識の〈百万遍〉の字の青が見ゆ 日は縦に縦に継ぐもの冬雲は輪郭線に光溜めつつ 浴槽を磨いて今日がおとといやきのうのなかへ沈みゆくころ 戒名に光の字ありまばたきはひかりをうすく挟むということ 雨脚が細くなりゆくつたなさにふたりはひとりよりもしずかだ かなしみと名づければひたのぼりくる枯れ蔓ほどの感情がある ひかりをあたえるように檸檬へ包丁の刃を差し込みぬ君を帰して 夕立は誰かの死後をざんざんと打ちいき鳥の頬をこすりて 人体にボタンがないということも嬉しく雨に身を差しこみぬ ひらくもののきれいなまひる 門、手紙、脚などへまた白い手が来る 先に眠ったあなたからはみ出してきた夜をさかなの薄さでねむる からめれば切符のような冷たさの舌だったんだ だったんだ 冬 平泳ぎするとき胸にひらく火の、それはあなたに届かせぬ火の 歳月の裂け目のような秋めぐり立ったままいのちほどく植物 風の昼運ばれてゆきてのひらを離れてからがほんとうの柩
巽@Tatumi2025年4月1日再読風のない史跡を歩む寡黙なら寡黙なままでいいはずなのに 沈黙がリラを咲かせてもう何もこぼれないよう手の下に手を 教室に声とつとつと 訳されて異国の点灯夫は夜の街路へ こんなにも架空のさびしさ散りばめて街とはつねに鳥の背景 立ち尽くす一世の他はなき樹々よその一本に似ているきみは 言葉より声が聴きたい初夏のひかりにさす傘、雨にさす傘 空間を選んで疲れやすき眼よやがてしずかな鬼百合の夏 触れることは届くことではないのだがてのひらに蛾を移して遊ぶ




