神木紗由 "風になるにはまだ" 1900年1月1日

風になるにはまだ
人間が「情報人格」としてネットワーク上の世界で暮らせるようになった世界の話。一部例外はあるが、ひとまず高齢者や難病など肉体的な死が近い人間からこの選択を摂る人が出てきている。中は日本国憲法が適用されており、現実社会側の企業のリモートワーカーとして働くこともできる。しかし、永遠に生きられるかと思われていた情報人間も風になる――「散逸」というデータの細切れになってしまう現象で、事実上の「死」を迎えることになるということがわかってきた。 話自体は結構ふんわりしているのに、骨組みはかなーりガッシリしたSF。 人格の転送は本当にカット&ペーストなのか? 行く前と行った後は本当に同じ人間なのか? そこも曖昧なまま人類はやってしまう。肉体は焼却してしまうのに。 ①「風になるにはまだ」。楢山小春とバイトちゃんの話。情報人格が実体ある人間を憑代にして現実世界への会合に出る。それを受け入れる人がいたり、受け入れられない人がいたり、そんな話。楢山さんがたのしそうで、良かった。 ②「手のなかに花なんて」。優花と早季子の話。さよならに続きそうな話。早季子の最愛は優花だったし優花の親愛も早季子だった。祖母と孫がそれぞれの望む関係のまま、長く過ごせる世界ではない。お別れの予感が美しい夏の庭の光景とともに目に焼き付く。 ③「限りある夜だとしても」。榛原と三森の話。現実サイドの話。①のバイトちゃんが榛原に見られている。情報人格に逃げ道がある、そう突き付けられたとき、どう考えたらいいのか。どう考えるべき……いや、何を基準に考えるべきなのか。 ④「その自由な瞳で」。映とトオルの話。リアルが充実しているタイプ。深愛、でいいのかねえ。良くも悪くも家柄でしか友達を作れなかったお嬢様と、情報人格になろうとしている重病人のカップル。ジェットコースターみたいね。 ⑤「本当は空に住むことさえ」。古谷誠治と敷島綾女の話。そのうちそれが普通になって行くのかもしれないね。箱もの作るようなお仕事してた方々は、情報人格になっても大変バイタリティがすごい。今回はさらにガワのとこから始めてたけど、実体ある建物ですごいもの作ってたし、自由な中の制約を見出したらすごく仕事早そう。 ⑥「君の名残の訪れを」。並木翼と神澤理知の話。これを何と呼んだらいいのか、私にはわからない。ただ、この連作の中で、並木のことが一番好きだと思う。
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