きなこ "村田エフェンディ滞土録" 2025年11月7日

きなこ
きなこ
@kinako2025
2025年11月7日
村田エフェンディ滞土録
p56「やはり、現場の空気は良いものだ。立ち上がってくる古代の、今は知る由もない憂いや小さな幸福、それに笑い。戦争や政争などは歴史にも残りやすいが、そういう日常の小さな根のようなものから醸し出される感情の発露の残響は、こうして静かに耳を傾けてやらないと聞き取れない。それが遺跡から、遺物から、立ち上がり、私の心の中に直接こだまし語りかけられているようなので充実。私は幸せであった。」 『家守綺譚』の番外編。綿貫の友人、村田がトルコに留学していた時期のことを描いた小説。彼は大学の史学科在籍の講師でトルコの遺跡発掘物の整理をしていた。 彼が下宿していた屋敷にはドイツ人のオットー、ギリシャ人のディミィトリス、管理人兼家政婦のディクソン夫人、給仕のムハンマドらがいた。 それぞれの登場人物の背景や土地の人々との関係、現地にいる日本人とのやりとり、全てが細やかな描写でグイグイと物語の世界に引き込まれる。 村田が日本に帰り、その後第一次世界大戦と思われる戦争が起こる。しばらくしてディクソン夫人から届いた手紙の内容に胸が締め付けられた。 ラストで、元々はムハンマドが拾ってきた鸚鵡に村田が「ディスケ・ガウデーレ(楽しむことを学べ)」と囁きかけると、工芸品のように古びた様相の鸚鵡が叫んだ言葉。 涙無くしては読めない。 心に沁みた一冊。
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