
花木コヘレト
@qohelet
2025年11月7日
読み終わった
図書館本
ハンセン病
本書において、筆者の荒井さんが北條民雄の素顔に迫れているのは、ひとえに、荒井さんの読書の幅の広さと蓄積、そして学者として文献の研究手順を踏まえていることに、負っていると思います。
その本書は、ハンセン病についての概説書的な役割も果たしながら、北條の代表作である「いのちの初夜」と、その裏面である彼の日記の、両者を分析しているのですから、もともと北條の読者であった人も、これから読者になろうとしている人も、手にとって損はない書籍となっています。
特に、本書の白眉は、北條の日記の(部分的ではあるにしろ)精密な読解にあるでしょう。この読解に筆者が成功したことによって、小説からでは読み解けない北條の素顔に、読者が接近することが許されるわけです。
北條民雄の小説は、ハンセン病文学という魅力を増して無類に面白いため、近代日本文学に関心を持つ方ならば、きっと本書も楽しめると思います。
もし、本書を読み終えた方で、かつ、まだ北條の作品に親しんでいない方がいらしたら、私としては、北條の「すみれ」という、文庫本で5ページほどの掌編をお読みになることをお勧めします。本書の補完的な役割を果たしてくれると思うからです。


