
句読点
@books_qutoten
2025年11月8日
物語の役割
小川洋子(小説家)
読み終わった
ちくまプリマー新書の初期の傑作。
小川洋子さんの小説執筆の方法が具体的に開示されていて、創作をする人だけでなく読者の側にも新たな視点をもたらしてくれる。
特に第二部が素晴らしい。
テーマやストーリーをあらかじめ決めてから書き始めるのではなく、言葉になる前のイメージや風景が、自分の意思ではない偶然性によってやってくるところからしか創作は始まらないという。
もちろんそうした偶然にしか思えない創作のタネのようなものをちゃんと見つけて拾い上げるためには普段から物事をよく観察し、驚き、感動する感性がなければならない。むしろ小説家というのはそうした感性を鋭くさせ、言葉にならないものに言葉を与える仕事なのかもしれない。
小説を書いている間、小川さんは死者たちの声に耳を傾けている感覚だ、と書いていたのも印象深い。物語が起こる具体的な場所のイメージも、廃墟のようなところに自分が立ち、そこでかつてどんな人たちがどんな風に生活していたのかを幻視しながら書くのだという。
自分の中から言葉を出すのではなく、じっと耳を傾け、通路のようになる感覚。自分、という意識を持たずに、観察する透明な存在になること。
誰かが落としていったもの、落とした当人が忘れ去ってしまっているようなものを丁寧に拾い上げて、細かく観察し、そこから物語を掬いとる感覚。
これを読むと物語を書いてみたくなるし、小川さんの小説も読んでみたくなる。

