
ゆう
@yu_32
2025年11月13日
ごはんぐるり
西加奈子
読み終わった
衝撃作をいくつも生み出し、私たちの度肝を豪快に抜いてきた西加奈子さんの食エッセイ。
こんなにフリとオチが完璧な食エッセイ、他にある?!
あれだけコーヒーについて熱弁しておきながら?!
愛用のコーヒーマシンを愛おしみながら?!
好きな豆の銘柄もこだわっているのに?!
そんなオチ、あるかいな!!
思わずこちらも関西弁でツッコんでしまう。
ここだけ書くと、一つの章で一つの笑い、という感じがする。
違う。一つの章に対して、一つ笑うポイントがあるのではない。
一つの章の中の、一つのまとまりに一つはオチや笑うポイントが大抵ある。
それらのオチに対して、きちんとフリがある。
オチに対してフリが、そしてフリに対してオチが丁寧に設定されている。
上手すぎる。
これを練ってやっているのか、素で思ったことを書いたらこうなるのか分からないが、もはやどっちでもいい。
どちらにしても西さんの関西人としての非凡な才能が見え隠れする。
繰り返し書くけど、『ごはんぐるり』はコメディ小説ではなく、食エッセイだ。
食エッセイだからというのもあるけれど、この『ごはんぐるり』は食べ物一つ一つの描写が濃い。
ちゃんと食べ物が主役を張っている。
もちろん、西さんの人柄や性格も表れていて、まさに西さんにしか書けない唯一無二の作品なんだけど、食べ物の描写がとにかく際立っているので、食べ物が西さんに負けていないのだ。
どこまで自分の思いや自我を表出させるかというバランス感覚も絶妙。
西さんの、作者としての心の余裕すら感じる。
チョコレートを食べるシーンが秀逸。
実際はチョコがすごいというよりは、西さんが低血糖からの急激な血糖値の上昇できまっちゃっているのでは……?とビビるが、そんな状態を引き起こせるチョコのポテンシャルにもまたビビる。
西さんの手にかかれば、チョコはミラクルを起こすパワー系スイーツになる。
「ああああああ、甘くて美味しい!!やったるでー!!という感じ。」(p.51)
やっぱりチョコがすごいというより、血糖値スパイクできまっているようにしか見えないけど。
活字の力に圧倒されているけれど、西さんも活字の力で私たちを圧倒している側の人だ。
でも、私たちを圧倒しながらも、同時に他の人の活字の力に圧倒される、そしてそれをエッセイとして綴る素直さがなんだか尊い。
小説家になる前、アルバイトでまかないを作り、そしてまかないを食べた人たちの「美味しい」という感動に触れた瞬間の嬉しさを今でも大切にしているところ。
その原点から地続きになっている、「目の前の人を喜ばす」ことに憧れ、挑戦し続ける西さんの姿は眩しい。
食に代表されることが多いが、文化の違いは多様性の印であり、隔たりでもある。
その隔たりは時として容赦なく私たちに突きつけられる。
「料理が美味しい国は、きっといい国だ。絶対にいい国だ。」(p.150)
西さんの切実で祈るような思いの丈が凝縮された一行。
笑いあり、涙ありの欲張り食エッセイだった。





