あんどん書房 "女性差別はどう作られてきたか" 2025年11月12日

あんどん書房
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@andn
2025年11月12日
女性差別はどう作られてきたか
タイトルの通り、差別は自然に広がったものではなく、人為的に広められてきたものである。 “差別の根底には、自分と異なる他者に対し自分の方が優れていると思いたいという感覚があります。[…]こうした感覚だけでは社会的な差別構造は成立しません。それが当たり前で正しいのだという明確な説明が必要です” (P19) 本書は女性差別を後ろ盾する根拠となった制度がどのように成立したのかを、西洋と日本それぞれの歴史から解説する。 まず西洋ではキリスト教における聖書解釈から男>女という価値観が根付いていたとされる。それを近代社会にまで持ち込んで制度に組み込んでしまったのがジョン・ロックの「社会契約論」なのだ。 ロックが王権を否定するために持ち出した自然状態では、女性は当然男性に従属するものとされていた。また、国家と家族が分離された結果、女性は私的領域に閉じ込められることとなった。 このような女性の立場をより固定化してきたのが、コモン・ローにおける「カバチャー(coverture」」である。この法のもとでは、妻は財産や自身の肉体に対して無権利状態とみなされる。 さらに18世紀、ウィリアム・ブラックストンが「契約」の概念を適用したことにより、この差別構造は20世紀まで引き継がれてしまった。 一方の日本においては、徳川幕府が儒教にもとづいた政治を行ったため女性差別の構造を作ったとしばしば説明される。しかし、実際江戸時代までの日本の「家」構造は夫婦が共同で運営する中小企業のようなものであり、西洋のように女性が無権利状態におかれているわけではなかった。 日本において西洋的な女性差別構造がもたらされたのは、明治時代の民法制定の際に西洋のものを参照したこと、その後の法整備において戸主=男性の権利を優遇したことが差別構造を生み出した要因である。 また、本書ではこれらの制度のなかにおいて、男女平等的な価値観を唱えたホッブスと福沢諭吉の論も紹介されている。それぞれの制度が生み出される際、女性差別的でない方法が可能であったということが、現実的に選択された制度を批判する形となっている。 以下、感想。 まずすべての根源的な創世記の価値観。ここは実際聖書を読んだときにも違和感を覚えた気がするが、この解釈のために生み出された何世紀もの差別を思うとやり切れない。 日本の「家」構造や夫婦のあり方に関しては何となく昔からそうだったんだろうなと思っていたので、意外だった(もちろんこれはあくまで「ある面においては制度的に西洋よりマシだった」というだけの話で、女性の役割は限りなく固定化されていたのだろうが)。 歴史にほとんど関心を抱いてこなかったので難しかったが、構造を知るためには制度のことももっと知らなければならないなと思った。 本文書体:リュウミン 装幀:原研哉
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