八玖 "ザ・ロイヤルファミリー" 2025年11月14日

八玖
八玖
@rock5104
2025年11月14日
ザ・ロイヤルファミリー
ドラマ版が好きなので購入。続きが待ち切れなくて原作を手に取ったが、ドラマ版は流れが色々と変わっているので、結果として完全な先取り(ネタバレ)にもならず両方楽しめそうで良かった。  競走馬とそれを取り巻く人々の姿を通して、馬と人それぞれの“継承”を描いており、残された記録や記憶が時には壁や重石になり、時には希望や背を押してくれる手にもなる物語に胸を打たれた。  メインで描かれているのはオーナーである山王を中心に、彼を第二の父のように慕うレースマネージャー栗栖、山王の庶子である耕一といった彼の後継者の物語だが、個人的にはライバル的立ち位置である椎名と彼の息子である展之の関係も印象深かった。山王のG1初勝利の際には祝花に「勝って尚、孤独は癒えず」と添え、山王の所有馬だったロイヤルホープの産駒で次世代に道を示して見せた椎名。彼への反発心から競馬に触れ、耕一の同志であり好敵手として鎬を削った展之。ふたりの関係に触れられていた箇所は僅かだが、ロイヤルファミリーとは違った形のもう一つの継承の存在も、本作に深みを持たせる重要な要素の一つだと感じる。  本作の結びは、明るい未来を示唆してくれている。そして、それに続く競走成績表に記されたロイヤルファミリーの輝かしい栄光は、その未来を具体的に示してくれる。それは言ってしまえば夢物語のようで、到底現実的ではない。それでも、悩み苦しみながらも競走馬を慈しみ、先人たちから受け継いだものを守り育ててきた栗須たちに降り注いだ祝福のような勝利を思うと、成績表に記された数字を見ているだけで涙が溢れて止まらなかった。  語られないからこそ美しいとは分かっているのだが、叶うならばロイヤルファミリーのその後と、更なる継承を見届けられたらと願ってしまう。読了後いつまでも感動が色褪せない、素晴らしい作品だった。
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