綾鷹 "わたしを離さないで" 2025年11月17日

綾鷹
@ayataka
2025年11月17日
わたしを離さないで
わたしを離さないで
カズオ・イシグロ,
土屋政雄
2016年にドラマを見た時の衝撃が忘れられず、小説を読み始めた。 マダムの家からの帰り、トミーが絵の入ったバッグを抱えているシーンは胸が痛くなる。 ・わたしたちはみな、新しい生活に順応しようともがいていました。おそらく誰もが、のちに後悔することを何かしていたと思います。あのとき、わたしはルースの一言に反発しましたが、コテージで生活しはじめた頃のルースの行動を――いえ、誰の行動であれ――いま、あれこれあげつらうのは、意味のないことに思われます。 ・ロジャーと会ってからの数カ月間、わたしはヘールシャムの閉鎖と、それが意味することを考えつづけました。そして、徐々にあることに思い至りました。それは、時間切れ、ということです。やりたいことはいずれできると思ってきましたが、それは間違いで、すぐにも行動を起こさないと、機会は永遠に失われるかもしれない、ということです。 ・ぼろ切れを見つけ、できるだけの泥を拭い取りました。トランクからそのぼろ切れを取り出すとき、トミーのスポーツバッグも一緒に出しておきました。動物の絵が入っているあれです。走りはじめてふと見ると、トミーがそのバッグを膝の上に抱えていました。 わたしたちは、あまりしゃべることもなく、走りつづけました。バッグはトミーの膝の上です。絵のことで何か言ってくれるのを待ちました。ひょっとしたら、また癇癪を起こし、絵を全部窓からばらまいたりしないだろうか、と思ったりもしました。でも、トミーはバッグを保護するように両手を置き、前方に現れる道を見つめつづけました。 ・おれはな、よく川の中の二人を考える。どこかにある川で、すごく流れが速いんだ。で、その水の中に二人がいる。互いに相手にしがみついている。必死でしがみついてるんだけど、結局、流れが強すぎて、かなわん。最後は手を離して、別々に流される。おれたちって、それと同じだろ? 残念だよ、キャス。だって、おれたちは最初から――ずっと昔から――愛し合っていたんだから。けど、最後はな……永遠に一緒ってわけにはいかん
読書のSNS&記録アプリ
hero-image
詳しく見る
©fuzkue 2025, All rights reserved