
柿内正午
@kakisiesta
2025年11月18日
近代小説の表現機構
安藤宏
“今日の人文科学の常識においては、特殊な独我論的立場に立たぬかぎり、「自己」を先験的な実体としてとらえる発想は稀であろう。「性格」にせよ、「人格」にせよ、個人の独自性もまた、もとからある属性としてではなく、常に生きた現実、生きた他者との関係から相対的に立ち上がってくる概念であると考える。だが、少なくともロマン主義の浸透以降、近代の文学はあえて「自我」や「個性」を至上のものとし、封建的な遺制への反逆を通し、個人の主体性を確立するドラマをみずからの命題としてきた。それはいわば無意識の規制として、「個」の独自性を描くことにこそ文学の使命がある、という強迫観念にとらわれ続けてきた歴史でもあったわけである。”
p.117



