
もん
@_mom_n
2025年11月19日
すべての、白いものたちの
ハン・ガン,
斎藤真理子
読み終わった
心に残る一節
@ 図書館
こんな人間になりたいと思うほど憧れている人におすすめしてもらい、すぐに積読から引っ張り出して読んだ。
あまりの文章の美しさに、読みながら何度もため息が漏れた。
詩のようでもあり、エッセイのようでもあり、でも小説。初めての読み心地だった。これはすごい本だ。
p.34
闇の中で、あるものたちは白く見える。
ぼんやりとした光が闇の中へ分け入っていくとき、さほど白くなかったものまでが青ざめた白い光を放つ。
p.67
遠くで水面が立ち上がる。そこから冬の海が走ってくる。もっと近くへ、もっと力強く、追ってくる。最大限に高くそそり立った瞬間、波は真っ白に砕け散る。
海が粉々に割れ、砂浜を滑ってきてまた後方へとしりぞく。
p.81
ある日彼女は、一つかみの粗塩をよくよく眺めてみた。白っぽい影を宿したでこぼこの塩の粒子はひんやりと美しい。何かを腐らせずに守る力、消毒し、癒やす力がこの物質に宿っていることが、実感できた。
p.87
寒さが兆しはじめたある朝、唇から滑れ出る息が初めて白く凝ったら、それは私たちが生きているという証。私たちの体が温かいという証。冷気が肺腑の闇の中に吸い込まれ、体温でぬくめられ、白い息となって吐き出される。私たちの生命が確かな形をとって、ほの白く虚空に広がっていくという奇跡。




