やえしたみえ "イエスの生涯" 2025年6月5日

イエスの生涯
イエスの生涯
遠藤周作
「イエスの生涯はそれだけだった。それは白い紙の上に書かれたたった一文字のように簡単で明瞭だった。」を読んだ瞬間に、カトリック入門講座修了祝いとしてカテキスタの方が贈ってくださった「愛」という書を思い出した。主がおられるこの世界のなんと美しいことか。 遠藤周作の聖書解釈が神学的に正しいものなのか、実際に起こったことなのかは一旦脇に置いておく。まず、文章がうますぎるので、それだけで一読の価値がある。 イエスはただ、明確に、愛の人であったのだ。それを弟子たちは、あのやさしい人が十字架の上で惨めに死んだときにやっと理解した。そうまでしないと弟子たちは、そして私たちも理解ができなかった。その感情の動きを、論文調でありながら見事に描き切り、ドラマティックに終結する。信仰のない人でも感動するんじゃないかと思う。 そしてキリスト者である我々は、一度読了すれば、十字架につけられて死に、葬られ、黄泉に下り、三日目に死者のうちから復活し……と唱えるとき、この弟子たちのことを、最も身近でイエスを見た彼らの後悔と苦しみと、そこから生まれたキリスト教の流れに自身がいることを考えざるを得なくなる。キリストと呼ばれるイエス、あなたを信じます。あなたが私たちの罪を引き受け、苦しみながら、愛のうちに死んでいったことを。そうして今も、我々の内に生きて治めておられ、全ての苦しみと共にあることを。 遠藤周作の思想の根幹にあたるのだろうから、遠藤作品を好む方は是非一読するべきだ。作者の思想って大事。
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